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ブーリン家の姉妹 - 町田敦夫

◆今が旬の若手実力派2人が激突!(80点)

 今をときめくスカーレット・ヨハンソンとナタリー・ポートマンが、複雑な愛憎で結ばれた姉妹に扮する歴史劇。新興貴族のブーリン卿は一族の隆盛を図るため、長女アンをヘンリー8世の愛人にしようと企てるが、国王が見初めたのはすでに結婚していた次女のメアリーで……。

 穏やかな田舎暮らしが一番という無欲な妹を小悪魔系のヨハンソンが、のし上がることこそ喜びという野心家の姉を学級委員タイプのポートマンが演じているのがポイント。一見、似つかわしくないキャスティングだが、できあがった作品を観れば、2人ともこれ以上なく役にハマっている。若手“実力派”との形容は伊達ではない。

 世界史にはそう詳しくない方でも、王妃との離婚を望んだイングランド国王が、それを認めないカトリック教会と決別して英国国教会を作ってしまった逸話はかすかにご記憶だろう。その国王というのが、他でもない、ブーリン家の姉妹が寵愛を奪い合ったヘンリー8世だ。美しくはあっても退屈だったメアリーが早々と国王に飽きられた後、アンは洗練と機知を武器に王に取り入る。だが私生児を産んでも得にはならないと計算したアンは、恐れ多くも王に対し、王妃と離婚して自分を正室にするよう迫る。

 アンがそのエサにしたのはセックスだった。王の誘いを巧みにじらし、6年間も体を許さなかったのだという。思惑通りに王は王妃を離縁し、1度はアンを正室にするのだが、これは明らかにアンの戦略ミスだ。6年もじらされれば、セックス自体が目的化し、それが達成された瞬間に熱が冷める。ヘンリー8世もまた、アンの産んだ子が男児ではなかったと知れた途端にアンへの愛情を失った。離婚という名のパンドラの箱を開けたアンは、今度は自分が離婚される恐怖におびえる身となったのだ。そして誰もが唖然とするような起死回生の大勝負に出て、非業の死を遂げていく。そんな「策に溺れた策士」の悲哀を、時に傲慢に、時に繊細に表現するポートマンの名演が忘れがたい。

 一方のメアリーは、アン・ブーリンと違ってほとんど無名の存在だったそうだが、脚本のピーター・モーガン(『クイーン』)は、彼女を歴史の闇から発掘し、魅力的な肉付けを施した。夫に気兼ねし、いやいや王の愛人となりながら、いざ宮廷に上がると本気で王を愛してしまうあたり、ある意味では“算盤づく”のアン以上に女の業が深いとも言える。

 もうひとつ世界史の復習をするなら、アンの産んだ女児というのが、後にイギリスの黄金時代を作るエリザベス1世だ。ケイト・ブランシェット主演の『エリザベス』を観た時には、なぜ少女時代のエリザベスがあれほど不遇だったのかがピンと来なかったが、本作を観れば“アン・ブーリンの娘”が冷遇された理由がよくわかる。試験勉強の世界史は個別の年号を覚えるだけのデジタルなものになりがちだが、本当の歴史はアナログに連続したものなのだと改めて気づかされた。歴史は教科書に書かれていない部分こそが面白い。

町田敦夫

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