2004年にロシアで誕生したファンタジー・アクション映画『ナイト・ウォッチ』。セルゲイ・ルキヤネンコの小説を映画化したこの作品は特に世界のオタク達の間でセンセーションを巻き起こした。現在そのシリーズは2作目の『デイ・ウォッチ』までが公開されている。『ナイト・ウォッチ』『デイ・ウォッチ』を監督したのはカザフスタン出身のティムール・ベクマンベトフ。シリーズの3作目の公開が期待されている中、彼が新たに放つ作品はなんとハリウッド映画。マーク・ミラーのコミックを映画化したその『ウォンテッド(原題:WANTED)』にはジェームズ・マカヴォイ、アンジェリーナ・ジョリー、モーガン・フリーマン等超豪華なスターが集った。
ウォンテッド - 岡本太陽
歩いても 歩いても - 渡まち子
ディテールの丁寧さが光る秀作ホームドラマ。長男の命日に集まった家族の一日を描く物語だ。食事、お墓参り、昔話と、特別なことは何もないが、それぞれの心のわだかまりを絶妙な会話で描く。特にどっしりと存在する母親役の樹木希林の、辛らつでユーモラスな演技が秀逸。コンプレックスとプライドが混じる主人公役の阿部寛も好演だ。反目も愛情もすべて含め、家族の歴史は重ねられる。本音を語るときに多用する横顔のショットが印象的だ。
休暇 - 福本次郎
家族水入らずの旅に出かけたのに、どこか浮かない顔の男。荷物を降ろす音に怯え、妻と距離をとってしまい、子どもとの間もどこかぎこちない。男の心に去来する、人命を奪ったことに手を貸したという呵責。たとえそれが仕事であったとしても、死にゆく受刑者の断末魔の痙攣や体温の感触は決して消えない記憶となって彼に付きまとう。映画は、合法的な殺人が認められた現場に立ち会う人びとの心理を通じて、命の重さを問う。
ネコナデ - 福本次郎
己にも他人にも厳しく接してきた男が、小さな命と触れ合っているうちに今までの生き方を見つめなおす。人情に薄く平気で部下や同僚にクビを言い渡してきた男が少しずつ変わっていく様子がとても自然だ。面倒を見ていないと心配でたまらない、それでも会社があるので仕方なく離れなければならない。オフィスでも家庭でも腹の底から笑うことのなかった主人公がいつしか子猫に癒されていく過程を通じて、彼自身も気付いていなかった心の中の優しい部分が目覚めていく。
告発のとき - 渡まち子
2004年、元軍人警官のハンクは息子のマイクがイラクから帰還後に失踪したとの知らせを受ける。女刑事エミリーの助けを借りてマイクを探すハンクだったが、予想外の真実と息子の心の闇を知ることになる…。
BIGGER, STRONGER, FASTER* - 岡本太陽
わたしがまだ小学校低学年だった頃にソウルオリンピックが開催された。その時に、ベン・ジョンソンが100m決勝で9秒79の世界新記録を叩き出して優勝したが、競技後の検査で薬物使用が発覚し、金メダルは剥奪された。その薬物とはステロイド。そしてそのステロイドを追うドキュメンタリー映画が誕生した。『BIGGER, STRONGER, FASTER*』というその映画は2008年のサンダンス映画祭でワールドプレミアを迎え、トライベッカ映画祭でも披露されている。
西の魔女が死んだ - スタッフ古庄
西の魔女が死んだ - 福本次郎
みずみずしいまでの緑に囲まれた山奥の洋館、そこは隅々まで手入れが行き届く一方で、森の動物や植物の生命の息吹が濃厚に感じられる。現実世界とは思えないようなおとぎ話の舞台、一歩踏み入れた瞬間からヒロインの少女同様、魔法にかけられたような錯覚に陥る。食事の用意をし、畑の作物やニワトリの世話をし、空き地で深呼吸をする。ただ毎日を規則正しく過ごしているだけなのに、太陽の光や自然の恵みに感謝したくなる。そんな気持ちを心に芽生えさせるかのようなカメラが非常に美しい。
屋敷女 - 福本次郎
傷口から流れる血、血管から噴き出す血、内臓から染み出る脂混じりの血・・・。凄惨なまでの血のイメージが、この映画全体を女の歪んだ情念に染めていく。おなかに宿る自分の子だけは守ろうとする母親の自覚を持った女の強さと、その子を奪おうとする女の執拗な狂気。それらがシャープな映像と陰影の濃いライティングで強調され、ヒロインが体験する恐怖が増幅される。黒い衣装に身を包んだベアトリス・ダルが死神のような殺人鬼をクールかつ不気味に演じている。
ブレス - 渡まち子
キム・ギドクの才能はいつも観客の既成概念を超えた次元に存在する。自殺を繰り返す死刑囚と絶望した主婦が出会う物語だ。奇妙な愛の形を表すのは、極彩色の映像とフルコーラスで歌う四季の歌。セリフのない難役を演じるチャン・チェンの、生と死の間で狂っていく演技が見所だ。監督自らが神の視点のような役割で出演するのも興味深い。悲しみを抱えて終る悲劇だがギドク・ワールドを満喫できる。ありえない展開も含めて濃密な84分だ。
ゲット スマート - 岡本太陽
アメリカで1965年から1970年まで放送されていたテレビシリーズ『それ行けスマート』。メル・ブルックスとバック・ヘンリー制作によるこのシリーズは007のヒットを受けたスパイパロディもので、お茶の間で人気を博した。その『すれ行けスマート』がハリウッドで映画化され今夏の注目策として公開に至った。タイトルは60年代当時と変わらず『ゲット・スマート(原題:GET SMART)』で、主演にスティーヴ・カレルが起用されている。
譜めくりの女 - 渡まち子
女二人の心理サスペンスだが、仕掛けられた罠はあまりに残酷だ。音楽への夢を断たれたメラニーは、復讐のため高名なピアニストのアリアーヌに近づく。復讐といっても心理的に追い詰めるもの。ヒロインの音楽への思いが何もないので単なる逆恨みに見えなくもないが、静かなたたずまいが、幼い頃に受けた傷の深さを際立たせる。親しみやすくコミカルな演技が持ち味のフロが、珍しくシリアスで情緒不安定な役。この女優は本当に上手い。
赤い風船 - 佐々木貴之
◆鮮やかな美しさで綴られた映像詩(100点)
40分の短編作品『白い馬』(52)で世界的に注目を集めたアルベール・ラモリス監督の第二作目で、こちらも36分の短編作品。カンヌ国際映画祭の短編作品賞をはじめ、様々な映画賞を獲得した世界的にも名声が高い最高の名作である。そんな本作がデジタルリマスターによってより鮮明な映像へとパワーアップし、2007年に『白い馬』(53年度短編作品賞受賞)とともに再びカンヌ国際映画祭に出品された(監督週間出品として)。同じ作品が二度に渡って出品されるということは、この映画祭においても史上初の出来事だった。そして、2008年にデジタルリマスター化された両作品のリヴァイバル上映が決定し、再び名作が公のスクリーンに帰ってくることとなった。
奇跡のシンフォニー - 福本次郎
心の耳を澄ませば、風や雷そして光までもがメロディを紡ぎだし、大都会の雑音もリズムを伴ったハーモニーに変換される。世の中に氾濫するあらゆる音に旋律を見出す少年が、ミュージシャンとして成功する過程でバラバラになった家族を再び引き合わせる。音楽の無限の可能性と強烈な引力、映画はその美しさが人生すら変える力を持つことを丹念に描く。「信じ続ければ願いはかなう」という命題を言葉ではなく行動で示す主人公の姿は、ファンタジーにリアリティを与えている。
リボルバー - 福本次郎
スタイリッシュな映像と謎めいた登場人物、過去の格言を引用し頭脳を駆使して悪党を手玉に取る。さらに二転三転する展開にアニメーションまで加えて、新感覚のバイオレンス&ミステリー&アクション&サスペンス映画にする予定だったのだろう。しかし、大掛かりな仕掛けで観客をだますつもりだった脚本家が、結局一生懸命考えたプロットに収拾が付かなくなってしまい、物語の後半は主人公がアイデンティティクライシスに陥って延々と無意味な禅問答を繰り返す。おまけに彼の仇敵まで分裂した別人格に悩まされた挙句、自己崩壊を起こしてしまう始末。テーマを知的なコンゲームに絞るべきだった。


























