◆敵役の田中圭が迫力不足でミスキャスト(45点)
多襄丸(たじょうまる)とは、芥川龍之介の短編「藪の中」に出てくる盗賊で、黒澤明の「羅生門」にも登場するキャラクター。原案は同じだが、まったく別の視点から描いた異色時代劇だ。名門・畠山家の次男・直光は、陰謀により家を追われてしまう。将軍の酔狂や、兄、家臣、許婚の裏切りにショックを受けながらも、直光は、大盗賊・多襄丸からその名前と“浪切の剣”を受け継ぐことに。だが、新しい人生を生きようとした彼には、さらに過酷な運命が待っていた。
一つの事実が、視点を変えて語ることによってまったく違う側面を見せるのが“羅生門スタイル”。この映画は、語る人間が他者が知らない新事実を提供することによって、人間の業を表現する、変形・羅生門スタイルと言えようか。信頼、友情、忠誠心。すべてが不確かな世界で、主人公がただ一つ信じたものが愛だったという設定が、裏切りの物語に、恋愛青春映画の雰囲気を与えている。だが、敵役の田中圭が迫力不足でミスキャストだ。あのボンヤリした顔では、剣豪で頭脳明晰な野心家にはとても見えない。この役には、主役の小栗旬に匹敵するインパクトのある役者がほしかったところだ。許婚の阿古姫が崖から転落してもピンピンしているなど、いいかげんな描写も気になる。だが柴本幸の感情を殺した表情には迫力があり、直光を助けるための命がけの告白シーンは見事だ。ラストの主人公の言動は、直光も多襄丸も結局は単なる名前に過ぎず、誰もがなりうると同時に誰でもないとのメッセージなのだろう。




























