◆原初的なあたたか味が伝わってくる(70点)
見ているだけで癒されるとはエルマンノ・オルミの美しい映像のことだ。本作は巨匠オルミ自身が最後の長編映画と位置付けている。ボローニャ大学の図書室で大量の貴重な古文書に太い釘が穿たれる事件が発生。容疑者は若く優秀な哲学教授だった。彼はすべてを捨ててポー川の川岸にたどり着き、素朴な村人と交流しながら、暮らし始める。村人は教授のことをその風貌から“キリストさん”と呼んで慕うようになる。
明らかにイエス・キリストの寓話と呼べる物語で、宗教や哲学の知識があればベターだろうが、仮にそれがなくても原初的なあたたか味が伝わってくる。釘で打ち抜かれた古文書は、書物の磔刑のように見えるが、知識を単純に否定しているのではなさそうだ。机上の理論より人間同士のふれあいの中にある真理こそ豊かさだということだろう。教授がインド人女性の手を握り温もりを確かめあったり、本よりも友人と飲む一杯のコーヒーに喜びを見出すのがその証拠だ。大河ポーの川岸でのつましい暮らし、幻のように川を運航する大型船、道に灯した明かり。時に幻想的な映像は、目を通して感じる至福。難解ととらえずに、優しさに身を委ねたい。その後で、ゆっくりと立ち上ってくる、原点回帰の生への提案を、考えてみるのもいい。

























