◆深みのある物語が感動を誘う秀作(75点)
スター不在で監督も無名だが、深みのある物語が感動を誘う秀作だ。米国とカナダにまたがるセントローレンス川。そこでは多額の報酬と引き換えに不法入国者を運ぶ闇のビジネスが行なわれていた。夫に新しいトレーラーハウスの購入費用を持ち逃げされた白人女性のレイと、義母に奪われた我が子を取り戻そうとする先住民モホーク族の女性ライラは、なりゆきで手を組むことになり、この危険な国境超えを成功させる。家族のためとはいえ、捕まれば即刻逮捕のヤバい犯罪は、やがて当局の知るところに。警察に追われた二人は、自治権があるモホーク族の保留地に逃げ込むことになるが…。
欧米で白人優位は揺るがない事実だが、ここでは白人の優遇はほんのわずかだけ。アジア人もモホーク族も白人も、ただ貧しい人々が毎日を必死に生きているだけだ。ライラは平気で他人の車を盗むし、レイは銃をぶっ放す荒っぽい女性。だが、子供を深く愛する気持ちと最低限のモラルは決して失わない。何かと反発しあっていた二人が、パキスタン人夫婦の赤ん坊を助けるエピソードがそれを強く物語る。凍った川で仮死状態だった赤ん坊が息を吹き返すときの安堵した気持ちは、本来はまったく違う世界にいる女性二人を結びつけた。母親というのは命に対してこんなにも勇敢になれるのだ。やがて彼女たちの犯罪が明るみに出て、ある究極の決断を迫られることになる。先の読めないこの終盤の展開はスリリングにしてやるせないクライマックスだ。驚くべき結論に達した二人は、もはやいがみあっていた最初の二人ではない。全編、雪と氷の寒々しい映像が続くのだが、母として女性としてしっかりと前を向く彼女たちの姿に心が震えた。車が通れるほど硬く凍結した川も、春になれば氷が解け、生命力にあふれた水が流れる。派手なアクション映画や、TVの延長のようなドラマが悪いとは言わない。だが、地味でハードだがクオリティは極めて高いこんな秀作を見てこそ映画ファンだ。
(渡まち子)
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