映画ファン待望の電子書籍(スマートフォン向けアプリ)

サヨナライツカ - 渡まち子

◆昭和の時代を生きた世代の男性の勝手な妄想(20点)

 映像は綺麗だが、中身は男の身勝手さと女の浅はかさを描く時代遅れのラブストーリーにすぎない。1975年のバンコク。高級ホテルのスイートルームに住む美女・沓子は、お金に不自由なく、多くの男性から愛されることで満ち足りていた。豊は、バンコクに赴任してきたエリートビジネスマン。二人は出会った途端に互いに強く惹かれ情熱的に愛し合う。だが、豊には日本に残した婚約者の光子がいた。バンコクの狭い日本人社会で二人のことはたちまち噂になる。

 夢の女である沓子と現実の女である光子。二人が共に豊を愛し待ち続けるという設定は、豊に体現される昭和の時代を生きた世代の男性の勝手な妄想としか思えない。好青年と評判の豊は、社会のモラルに縛られるがゆえ、愛に対してずるい男。奔放に見える沓子もまた、少なくとも前半は自立心に乏しい受身の女性だ。軸足の定まらない二人はやがて破局を迎え、25年後にそれぞれ違った人生を歩んだ末に再会するが、これがまたなまぬるい。性愛から高純度の愛へと変わる物語は、愛されることだけで満足していた女性が、愛することこそが本当の喜びだと気付く心の変遷でもある。なのに25年間の心の屈折が物語からさっぱり伝わってこないのだ。おまけに、涙を誘うとウワサの終盤はいかにも韓国人監督らしい甘すぎる演出。この映画が切ないなどと思えるようでは、頭の中身が半世紀は遅れている。原作者の辻仁成の妻である中山美穂は、大胆なラブシーンを熱演しているが、どうもファム・ファタールには迫力不足。黙っているときは絵になるので、おそらくアイドル時代の名残の声のせいだろう。湿気を感じるタイの空気、エキゾチックな風景や贅沢なインテリア、ファッションショーのように着替える沓子の衣装など、浮世離れした空気が漂い、白昼夢のような映画だった。

渡まち子

スポンサードリンク