映画ファン待望の電子書籍(スマートフォン向けアプリ)

ゼロの焦点 - 渡まち子

◆幸せを探してもがく女性たちが過去に囚われる運命は、あまりにも切ない(65点)

 2009年に生誕100年を迎える社会派ミステリーの巨匠・松本清張。初期の傑作を映画化した本作は、原作にはない新たな要素が加わっている。昭和30年代、禎子は、見合いで鵜原憲一と結婚。しかし式から7日後に、夫は仕事の引継ぎに向かった前任地の金沢で行方不明に。禎子は夫を探すために冬の北陸へと向かう。地元の名士の夫人である佐知子や、どこか影がある受付嬢の久子と出会うが、夫の行方は分からず、時を同じくして連続殺人事件が起きる。

 物語は、戦後のオキュパイド・ジャパン(米軍占領期)の悲劇だが、21世紀に改めて映画化するのに、現代とつながる要素を盛り込めなかったのが何より惜しい。回想形式など、何か方法があったのではと思うが、いずれにしても、この話は、戦争や見合い結婚という昭和の時代背景抜きには語れない。連続殺人事件で殺された人間は、皆、夫の憲一とかかわりのある人物だったことから、やがて妻が知らなかった夫の過去が見えてくるという展開は、オーソドックスだがスリリングである。夫婦といっても元は他人同士。現代でも相手のことをすべて知っているかと問われれば疑問だろう。新しい時代を迎え、幸せを探してもがく女性たちが、過去に囚われる運命は、あまりにも切ない。演出は非常に手堅く、物語も分かりやすい。3人の女優たちは、皆美しく存在感がある。ただ不満なのは、広末涼子の声とナレーションだ。この人は演技やたたずまいはいいのだが、あの舌足らずの話し方がどうにもよくない。哀しい秘密と動機ゆえに暗い闇に落ちていく物語が、あの声で語られては興ざめだ。1961年に野村芳太郎が映画化した時のヒロインは久我美子。柔らかく独特の深みがある大女優の声と比べるのは酷だろうか。冷たく暗い北陸の風景が悲劇を象徴するかのようで、凄味があった。

渡まち子

スポンサードリンク