◆複雑な魅力を持つミステリアスな人間ドラマ(80点)
母と子の関係はすべての人間関係の基本だ。本作は、とりわけ母親であることの原初的な力強さを感じる、すさまじい映画である。だが俊英ポン・ジュノ監督は、ありがちな親子愛ではなく、複雑な魅力を持つ、ミステリアスな人間ドラマを作り上げた。漢方薬店で働きながら、一人息子のトジュンを女手ひとつで育て上げた母は、貧しくとも静かに暮らしていた。ある日、二人が住む街で、凄惨な女子高生殺人事件が起き、トジュンが第一容疑者に。無垢な心を持つ息子の無実を信じる母は、真犯人を追うべく、たった一人で走り出す。
子供を守るためならどんな苦労もいとわない、時に過剰とも思える母の愛情。おそらくそれは韓国の母親像の典型なのだろう。その証拠に、キム・ヘジャ演じる母親には特別な役名はなく、登場人物は誰もが彼女を“お母さん”と呼ぶ。だが息子を愛する母の無償の愛というお涙頂戴の感動ドラマを期待すると、とんでもないメに合うのがこの映画だ。田舎町で起こる殺人事件の裏には薄汚い人間の業があり、その部分はヒューマン・ドラマに、捜査をないがしろにし犯人を決め付ける警察の姿は社会派に傾き、母とトジュン、トジュンと友人の会話には、とぼけたユーモアが漂う。もちろん真犯人を追う過程は、見事なミステリーだ。単純にジャンル分けできない複雑さがある物語なのだが、終盤の母親の心理描写は、名女優キム・ヘジャの熱演、物語の衝撃的な展開とともに、圧倒される。冒頭、光にあふれる草原で放心したように踊る母の姿の意味を知るとき、この作品の深い魅力に観客は絡みとられるはずだ。ラストの母の行動の是非は、観客に映画との真剣な対話を強いる。ポン・ジュノの映画は見る側にも体力を要求するが、それだけの価値がある内容で、今後もこの人から目が離せない。




























