◆大人の恋愛映画(75点)
太宰治の同名短編小説を下敷きに、いくつかの太宰作品をミックスして描く、一組の夫婦の愛の物語だ。戦後の混乱期、大酒飲みで浮気を繰り返す小説家の夫・大谷の借金を返すため、妻の佐知は飲み屋の椿屋で働くことになる。美人で気立てのいい佐知はたちまち店の人気者になり、彼女を慕う青年やかつて佐知が想いを寄せていた弁護士が現われる。大谷は自分の浮気は棚に上げて嫉妬にかられるが、愛人の一人・秋子と心中事件を起こしてしまう。
物語は、一見、ダメ亭主を支える献身的な妻の体裁をとっているが、実はそうではない。この夫婦は正反対に見えて根っこの部分は似たもの同士だ。すべての理屈を自分中心に正当化してリロードできるのがその証拠。ただ、生と死に対する考え方が違うだけだ。大谷は明らかに太宰治自身を投影しているが、放蕩三昧で浮気性、破滅願望が強く自分勝手なのにどこか憎めないという不思議な男を演じる浅野忠信が、素晴らしい。この人の繊細な演技を見ていると、大谷の魔力に引き付けられて多くの男女が集まってくるのが納得できる。ふとした仕草に、往年の名優・森雅之を連想した。佐知を演じる松たか子の柳のような強さも負けずに秀逸。映像も艶やかで美しい。やるせなくてしたたか、そしてどこかこっけいな、大人の恋愛映画だ。



























