殺人事件容疑者の少年の有罪無罪を12人の陪審員が審議するうちに、圧倒的な有罪多数から論理的に話し合ううちに1人また1人意見を翻し、最後には理性が勝利するという構造はシドニー・ルメット版と同じ。そこにチェチェン問題や、法より暴力が横行するロシアの現状を盛り込んで恐るべき緊張感を生み出す。あるときは芝居を見ているような長回しのセリフ、あるときはアップと、ほとんどが閉鎖空間で進行する物語にアクセントをつける一方、少年の記憶をフラッシュバックさせてオリジナルを凌駕する社会性を生み出している。
12人の怒れる男 - 福本次郎
スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ - 福本次郎
ジェダイの騎士といえば卓越した戦士であるだけでなく、高潔な精神を持つ者の集団のはず。だからこそフォースという一種の超能力やライトセーバーという特別な武器を使うことが許され、兵卒たちの上に立つ高級士官としての地位を与えられているのだと思っていた。しかし、この作品でのオビ=ワン・ケノービは敵の猛攻に形勢不利と見るや降伏を申し出て時間を稼ぎ、味方が敵の拠点を爆破すると一転して条件交渉に出向いた敵将を攻撃するという、完全なだまし討ちを敢行する。彼の行為には完全に幻滅した。
この自由な世界で - 福本次郎
明るく希望に満ちた笑顔が、疲れを溜め込み腹に一物秘めたような悪相に変わっていく。資本主義経済とグローバル化が頑張って働いているシングルマザーの心を蝕み、いつしか彼女は搾取する側に回っている。この映画の「自由」とは、生き残るためにはなにをやってもいいという意味であると共に、すべてに自己責任をともなうことを示唆する。何より自分がカモにされないためにはより弱者を食い物にするしかない厳しい現実のなかで、家族を守るために良心を失っていくヒロインの姿が切なく哀しい。
セックス・アンド・ザ・シティ - 福本次郎
© MMVlll New Line Productions, Inc. Sex and the City™ is a trademark of Home Box Office, Inc. All Rights Reserved.
40歳を過ぎたヒロインが自分のことを "girl" と呼ぶことに面食らったが、それはいくつになっても乙女心を失いたくないという彼女の本心なのだろう。決して老けたとは認めず、オトコやファッションに心をときめかす姿を臆面もなく人前にさらす。そのためには身につけるものだけでなく美容にもふんだんにカネと時間をかけ、常に時代の最先端に身を置くように努力を惜しまない。そしていつも周りからは羨望のまなざしで見られていたい。一方でいくらセレブのような暮らしを送ろうとしていても実生活上の悩みは尽きず、理想とのギャップに忙殺される。映画は4人の中年女性の恋、友情、結婚、夫婦関係など身近な話題を通じて、彼女たちのたくましいニューヨークライフを描く。
カンフー・ダンク! - 福本次郎
© 2008 Chang Hong Channel Film & Video Co., Ltd., Shanghai Film Group Corporation & Emperor Motion Picture(International) Ltd.
正確無比なコントロール、空間を切り裂くジャンプ力、敵を惑わすボールさばきまで、カンフーで鍛えた技を応用したマジカルな試合だけでなく、時間を凍結させたり、チンピラとの大乱闘シーンなど、その映像はビジュアルに凝っていて非常に楽しめる。しかし、前半のカンフーアクションと後半のバスケットボールの試合、まったく違う色合いを融合させるプロセスは無理がある上に、老人と若者の友情がテンポを奪っている。「少林サッカー」の2番煎じを避けようとしたのか、もう少しテーマを絞り込むべきだった。
ベガスの恋に勝つルール - 福本次郎
何事も計画どおりに運ばないと気が済まないキャリアウーマンと、仕事も恋も中途半端なままの男。格差社会の両極端にあるような男女が大金目的に結婚生活を送るシチュエーションは説得力に欠け、コメディとして突き抜けないと興味が殺がれるばかり。さらにヒロインを演じるキャメロン・ディアスにかつてのような輝きがなく、筋だった首や深いほうれい線、くすんだ肌はとても恋に落ちる女性には見えない。ウォール街で働いているのはこういうタイプが多いのだろうが、もう少し夢を与えるべきだ。
ハムナプトラ3 呪われた皇帝の秘宝 - 福本次郎
まるで出撃直前に突然時間を止められたかのように並んだ武装した兵士と軍馬は、一体ごとにすべて個性を持たせた実物大の素焼き人形。彼らは、魔法をかけられたまま20世紀まで忘れ去られた、2000年以上前に君臨した中国皇帝の軍団なのだ。その皇帝と部下たちがもう命を吹き込まれ、整然と行軍する姿は圧巻だ。そして皇帝軍に挑む奴隷のミイラ。このシリーズのお約束ともいえる砂漠での大合戦シーンはかつてないスケールで繰り広げられるが、双方肉体の痛みを伴わないだけに重量感の乏しいビデオゲームを見ている気分だ。
TOKYO! - 福本次郎
街の魅力を伝えるわけではなく、住む人々の人情を描くわけでもない。東京は日常を乖離した出来事を紡ぎだす不思議なパワーを持った都市なのだ。椅子になる女、下水道に住む正体不明の男、引きこもりの男という3人の男女の物語を通じて、個人が他者とかかわりあう過程で起こるさまざまな軋轢を描く。最初は馴染めなくても、居場所を見つけてしまえば他人との関係を築くのもまた容易であるとこれらの映画は語る。
コレラの時代の愛 - 福本次郎
南米文学と日本の価値観の違いなのだろう。恐るべき執念で初恋の女性を射止めた主人公の思考回路と行動様式は、あまりにも純粋かつ破天荒でまったく理解の及ばない世界。しかし、愛と性の両極端の狭間で「恋に生きる」と公言してはばからない彼の人生はなんと豊穣なのか。一途に思い続ける一方で、600人を超える女性との交わりを克明に記録する。遠く乖離してしまった心と下半身が、ひとつの肉体に納まっているという奇跡をハビエル・バルデムが圧倒的な存在感で演じる。
アクロス・ザ・ユニバース - 福本次郎
ビートルズと同時代を過ごし、彼らの楽曲にリアルタイムで触れた団塊の世代にはたまらない魅力にあふれた作品なのだろう。劇中使われる懐かしいタイトルだけでなく、大志を胸に大都会に出てきた若者が恋と友情そして挫折ののちに新たな未来を見つけるという青春の通過儀礼に、反戦・ドラッグ・ヒッピー文化等の自分たちの1960年代の記憶と重ね合わせることができるはず。しかし、サイケデリックな世界や観念的な映像が結構長く、それが大麻吸引による幻覚を表現しようとしているのは理解できるが、ここまで過剰だといささか気分が悪くなる。
ダークナイト - 福本次郎
神出鬼没にして身元不明、超能力は持っていないが、警察の先を読みあらゆる警戒をすり抜けてビルやフェリー、人体にまで爆弾を仕掛ける。さらに要人を誘拐したり銀行からカネを盗んだりと、子分もほとんどいないのに人手がかかる大規模な悪事を事もなげに遂行する。そんなジョーカーの持つパラドックスがこの作品の魅力でもあり欠点でもある。カネには興味がなく、ただ悪の頂点に立ちたいという欲望は、結局のところ何を目指しているのだろうか。正義感ヅラしたバットマンや検事の鼻を明かしていく姿は痛快だが、動機が明示されないために狂人にしか見えなかった。
ひゃくはち - 福本次郎
公式戦で活躍するチームメイトをスタンドで見つめる補欠。ベンチ入りできなかった悔しさを隠しながら応援しているフリをして、心の中では早く負けてしまえと思っている。そんな複雑で屈折した心理が非常にリアルだ。がんばるだけでは報われない「才能の壁」という厳しい現実と、それでもわずかなチャンスを目指してバットを振る球児たちの姿を通じ、努力や信頼で結果を出す以前に羨望と挫折のまま終わる等身大の高校野球の世界を描き切っている。なにより「ベンチ入りギリギリ」という補欠選手にスポットを当てた視点がユニークだ。
スカイ・クロラ The Sky Crawlers - 福本次郎
細密に再現された飛行機の金属の質感だけでなく、空中戦で被弾した機体、主人公が目にする雲海や地上の風景などが実写以上のハイパーリアルな映像で表現される。その対をなすように登場人物が織りなすエピソードは輪郭がぼやけている。まるで操縦桿を握っている間だけが現実であるかのような若者たちの思いを通じて、生きることの切なさと命のはかなさを訴えようという試みは理解できるのだが、彼らは感情があるように見えるが所詮「ゲームのキャラ」、要するに Wii用フライトシューティングゲームソフトの世界観を観客に体感させようとするタイアップ商法なのだ。
ハプニング - 福本次郎
突然日常が凝固したかと思うと、人々は争うように自らの命を断っていく。毒ガスなのか空気感染するウイルスなのか正体は不明、そよいだ風に巻きこまれるだけで、人としての機能を停止してしまう。形も色も臭気もない「何か」に追われ襲われ、パニックに陥ることさえできずにそれが通り過ぎるのを待つしかない。ただ、その姿なき殺人者の不気味さはよく描かれているのだが、登場人物が感じる恐怖にまで昇華されておらず、中途半端な物足りなさしか伝わってこない。
赤い風船・白い馬 - 福本次郎
白い馬


























