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新宿インシデント - 福本次郎

カンフーもアクションも封印したジャッキー・チェンの代わりに、カメラが裏路地を走りまわる。根は善人なのに、仕方なく人を殺し、生きるためにさらに殺人に手を染める、善悪の狭間で苦悩する主人公をノワールなタッチで描く。(70点)
新宿インシデント

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 カンフーも派手なアクションも封印したジャッキー・チェンの代わりに、カメラが裏路地や非常階段そして下水道を走りまわる。黒く濁ってしまった心を象徴するかのような抑えた色調の映像は、新宿歌舞伎町に息をひそめる中国人不法入国者の人生そのもの。根は善人だったのに、逃げるために仕方なく人を殺し、生きるためにさらに殺人に手を染める。悪と手を切ろうとしても、一度足を踏み入れた裏社会に引き戻される。映画は善悪の狭間で板挟みになる主人公の苦悩をノワールなタッチで描ききる。

 日本に渡った幼なじみのシュシュを追って密入国した鉄頭は歌舞伎町に流れ着き、不法滞在者のグループに入る。カネを稼ぐため非合法活動を始めた鉄頭は頭角を現し、日本人ヤクザ・江口の命を救ったのをきっかけに、ヤクザの親分2人の暗殺を請け負う。

 鉄頭はもともとまじめな性格で、まともなビジネスを望んでいたため、せっかく歌舞伎町の中国人のボスとしてヤクザから認められてもあっさりと地位を捨ててしまう。しかし、自分は足を洗ったつもりでも周囲は敵も味方も簡単には許してくれない。ボスと認められた以上、歌舞伎町のような街では警察に言えないトラブルをきちんと処理するのが仕事のはず。そのあたりの鉄頭の覚悟が甘すぎたのだろう。仲間だった中国人は次第にチンピラ化し、歌舞伎町は治安の悪い街になってしまう。弱い者が団結し力を持てばやがてそれが権力になる、人間の欲望はとどまることを知らない、そんな業の深さがリアルだ。

 物語は鉄頭とシュシュの禁断の恋といったロマンスの方向に向かわず、複数のヤクザと中国人グループの勢力争いに終始する。合従連衡・裏切りと欺瞞、言葉や国籍は関係なく利害の一致したときだけ手を組み、用がなくなればあっさり切り捨てる。その変わり身の早さはこの世界で生き残る処世術。最後まで非情になりきれなかった鉄頭の運命があまりにも悲しかった。ただ、ジャッキーがイメチェンを図ろうとしているのはよく理解できるが、もっと男の哀愁や板挟みの感情を表現できる俳優が演じたら、壮大なオペラとなったであろう。

福本次郎

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