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この自由な世界で - 福本次郎

明るく希望に満ちた笑顔が、疲れて腹に一物秘めたような悪相に変わっていく。自分がカモにされないためにはより弱者を食い物にするしかない厳しい現実のなかで、家族を守るために良心を失っていくヒロインの姿が切なく哀しい。(70点)

© Sixteen Films Ltd, BIM Distribuzione, EMC GmbH and Tornasol Films S.A.

 明るく希望に満ちた笑顔が、疲れを溜め込み腹に一物秘めたような悪相に変わっていく。資本主義経済とグローバル化が頑張って働いているシングルマザーの心を蝕み、いつしか彼女は搾取する側に回っている。この映画の「自由」とは、生き残るためにはなにをやってもいいという意味であると共に、すべてに自己責任をともなうことを示唆する。何より自分がカモにされないためにはより弱者を食い物にするしかない厳しい現実のなかで、家族を守るために良心を失っていくヒロインの姿が切なく哀しい。

 コンサルタント会社をクビになったアンジーは友人のローズと共に人材派遣会社を立ち上げる。日雇いの移民労働者を斡旋する事業は軌道に乗るが、不渡り手形をつかまされたのをきっかけに、資金繰りに困ったアンジーはカネの亡者に堕ちていく。

 黒いライダースーツで大型バイクにまたがり、颯爽と営業をかけるアンジー。彼女は熱意でクライアントを獲得する一方で、労働者たちには違法な低賃金しか払わない。その上、安く借りた家屋を宿舎として又貸しし、そこでも抜け目なくもうけようとする。他方、祖国ではインテリだった人たちがイギリスでは最低賃金のウエイターに甘んじなければならず、彼らがイギリス人ブルーカラーの職を奪っている悪循環。ケン・ローチ監督はアンジーを通して、価格競争の名の下であらゆる先進国が抱えている「格差」の問題にメスを入れる。

 賃金未払いの労働者から殴られたアンジーは息子との生活を守るために不法滞在者の住居を横取りする。さらに脅迫された彼女の胸からは正義は完全に消え、ウクライナ人からカネを受け取るシーンでは詐欺師のような顔になっている。いまや世界は「だますほうよりだまされるほうが悪い」無法地帯と化し、法の保護を離れた外国人たちは何の保証もなく使い捨てにされていく。労働者側からではなく、彼らを使う立場の人間から見た切り口が鋭くリアリティに満ち、その世知辛さは「明日はわが身」という切実な思いを見るものに抱かせる。

福本次郎

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