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感映画批評

スラムドッグ$ミリオネア

◆人生と社会の核に迫ろうとした傑作 (90点)

スラムドッグ$ミリオネア

© 2008 Celador Films and Channel 4 Television Corporation

 舞台はインド。スラム街出身の少年ジャマール(デーヴ・パテル)は、解答するごとに賞金がつり上がっていくTVのクイズ番組「クイズ$ミリオネア」に出場した。彼は司会者(アニル・カプール)の読みとは裏腹に正解を重ねていき、全問正解まであと一歩のところまでこぎつけるが、不正解答を疑われて警察に拘束されてしまう。ジャマールは警察の取り調べに対して、自身の生い立ちを語り始める……。

 「クイズ$ミリオネア」は、イギリスで生まれた4択のクイズ番組。日本でもみのもんたが司会を務めて一世を風靡した。本作「スラムドッグ$ミリオネア」は、インド国内で放映されているクイズ番組「クイズ$ミリオネア」を舞台に、社会性とロマンスを織りまぜた傑出のエンターテインメントだ。各方面から圧倒的な賞賛を浴びて、アカデミー賞では、作品賞や監督賞を含む8部門で栄冠に輝いた。

 「クイズ番組のスタジオ収録」と「主人公ジャマールの回想」と「警察署での尋問」という3つのシーンを巧みに編み込みながら、インドという国の現実と、その底辺で生き抜いてきたジャマールの過酷な生い立ちを描く。

 とくに圧倒されるのが「ジャマールの回想シーン」のドライブ力だ。社会矛盾に満ちたスラムの実状と、手触り感のあるリアルな映像、それに、腹の底に響く躍動感あふれる音楽が相まって、ドラマに生命力を与えている。さまざまな価値観が入り乱れ、玉石が混交するインド社会のカオスぶりを、この映画はスピーディかつダイナミックに活写する。

 スラムで生きる少年少女は、ほとんど野生のなかで弱肉強食を運命づけられた小動物のようだ。彼らは、舌なめずりする「死」という魔の手から、ときに必死に、ときにのらりくらりと身をかわしながら、今ある「生」をとにかく生きる。そこでは、人権もモラルも良心も用をなさない。スクリーンの向こう側で常に神経を研ぎすませながら生きる彼らと、スクリーンのこちら側でクッションの利いた座席に腰を沈める私たちでは、いったい何が違い、何が同じなのだろうか。そんなことを考えさせる。

 あらゆる"対比"が見られる映画である。「スラムドッグ$ミリオネア」とは、つまり<スラムの野良犬>と<大富豪>という意味の対比だが、そのほかにも<スタジオの華々しさ>と<スラムの薄暗さ>、<愚直にお金を得る兄>と<純真無垢な弟>、<富を象徴するビル群>と<貧困を象徴するスラムの瓦礫>、クイズ司会者の<表の顔>と<裏の顔>、<ヒンドゥー教>と<イスラム教>、<正解>と<不正解>、<天国>と<地獄>、<愛>と<憎しみ>、<信頼>と<裏切り>、<粘り>と<諦め>、そして<生>と<死>。すべてが対極にあるようでもあり、背中合わせにあるようでもある。そしてこの混沌こそが、インドの「いま」なのだろう。

 社会派映画としての質を追求しながらも、作品を支える野太い幹が、じつはロマンチックな「純愛」であるところに、ダニー・ボイル監督のフトコロの深さが感じられる。ジャマールが挑む最終問題が、たとえ正解であれ不正解であれ、この作品の価値は何ら変わらない(と私は思っている)。それはジャマールが何のためにクイズに挑戦し、どの段階でその目的が達成されたかを考えれば明白であり、そこで初めて提示される希望に、スクリーンのこちら側にいる私たちは勇気をもらうことになる。

 痛々しい現実に鋭く切り込んだ映画ではある。しかし一方では、人間の生きる糧となる希望や愛は――本人がそれを承諾しない限り――何者であれ侵略できないことを、ジャマールの信念とラストに用意された「運命」が示す。間違っても、主人公と恋人が高級ホテルの最上階でミリオネアぶって乾杯するラストシーンを用意する映画などではない。どこまでも熱っぽく、人生と社会の核に迫ろうとした傑作だ。大団円のダンスショーが楽しめるエンディングまで、スリル、ドラマ、社会性、ロマンス等、あらゆる面から映画の魅力を存分に見せつけてくれる。

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