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釣りキチ三平 - 山口拓朗

◆好きなものに熱中することの尊さ(35点)

 天才的な釣りの腕をもつ少年・三平(須賀健太)に、ある日、アメリカでバス釣りのプロとして活躍する鮎川(塚本高史)が声をかけてきた。鮎川が伝説の「夜泣谷の巨大魚」の話をすると、三平はが然ソイツを釣る気になる。ところが間が悪いことに、三平を東京へ連れ帰ろうと三平の姉・愛子(香椎由宇)がやって来て……。

 1973年から10年に渡って『週刊少年マガジン』で連載された人気アニメを、米アカデミー賞の外国語映画賞を受賞した「おくりびと」の滝田洋二郎監督が実写化した。

 舞台は自然豊かな山のなか。かやぶき屋根の家に住む三平たちは、いろりを囲みながら食事をするような生活を送っている。118分の上映時間中、都会的なにおいがするものは、ほとんど登場しない。テレビもパソコンも電子レンジも、それに、三平くらいの子供が遊びそうなオモチャやゲームの類も……。

 須賀健太演じる三平の天真爛漫なキャラクターが、この映画のすべてともいえる。彼の旺盛な好奇心と屈託のない笑顔は、この映画が映し出す自然同様に美しい。三平のふるまいに教えられるのは、それが正しいとか間違いとか、そこに意味があるとかないとか、そういうことではなく、好きなものに熱中することの尊さ。その一点に尽きる。

 私は、釣りについては門外漢だが、それでも、三平や鮎川たちが花を咲かす釣り談義を見ていると、思わずほほが緩む。好きなものに向き合う気持ちは、普遍心理として伝導しやすい。

 とはいえ正直、大人が鑑賞するには、食い足りない作品である。長丁場にもかかわらず、登場人物の背景や個々のエピソードが掘り下げられていないのが最大の原因だろう。鮎川の存在もそうだし、三平と姉の関係もそう。表面には「夢」や「家族愛」といったそれなりのテーマが並べられているのに、その一つひとつに奥行きがない。安直な説明描写に頼りすぎ、ともいえる。「おくりびと」と比べると、ずいぶん丁寧さに欠ける演出である。

 また、VFX(ビジュアル・エフェクツ)を駆使した釣りのシーンや巨大魚の描写は、ビジュアル的に楽しめる面もあるが、それらが作りモノであることが見え見えなため、この作品が醸し出す自然な雰囲気をかえって害すという皮肉をもたらす。

 何よりすさまじいのが、クライマックスの釣りファイトだ。開いた口がふさがらないどころか、そのふさぎ方を完全に忘れてしまうほどの荒唐無稽ぶり。マンガの実写版につき、多少大胆な描写があるのは構わないが、ここまで突き抜けるのであれば、チラシには「子供向けファンタジー」とでも明記しておくべきだろう。

 「おくりびと」を手がけた滝田監督の米アカデミー賞受賞後第一作ということで、海外からも多数のオファーを受けているそうだが、そうした国の観客を失望させてしまうのではないかと、いらぬ心配をしてしまう本作「釣りキチ三平」。

 釣りや原作に興味のある方、あるいは「"もやし"のような我が子に、たくましくなってもらいたい!」と考える親が、子供と一緒に鑑賞する分にはいいが、単純に「おくりびと」の名前に"釣られて"いくと、お口の閉め方を忘れてしまう可能性があるので、注意が必要だ。

山口拓朗

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