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感映画批評

ファニーゲーム U.S.A.

◆覚悟して客席に座る必要がある (90点)

© 2007 Celluloid Dreams Productions – Halcyon Pictures – Tartan Films -X Filme International

 夏のバカンスをすごそうと湖畔の別荘に到着したアン(ナオミ・ワッツ)とジョージ(ティム・ロス)夫妻のもとに、ポール(マイケル・ピット)とピーター(ブラディ・コーベット)という見知らぬふたりの青年が現れる。不可解な態度をとる彼らは、しだいに凶暴な本性を見せはじめ、ついには、生死をかけた"ゲーム"のスタートを宣告する……。

 個人的なアーカイブにアクセスしたとき、最も記憶に残っている映画の1本が「ファニーゲーム」(97年)だ。

 あのとてつもなくムナクソ悪く、他に類を見ないほど先鋭的で、容赦なく人間の怖さと弱さにメスを入れた傑作が、再びハネケ監督の手によって撮影された。

 自作のリメイクに際して、ハネケ監督は、編集やカットにいっさいの変更を加えないことを条件に挙げたという。そして、その条件通りの撮影を実行。したがって、オリジナルから変化したのは、キャストとセリフ(ドイツ語→英語)くらいなものだ。

 ハネケ監督がなぜこのような仕事を受けたかは、推測に難くない。約10年前に制作したオリジナルバーションは、その鮮烈かつ壮絶な内容が賛否を呼び、一部のミニシアター系でしか取り上げられなかったという。問題作ゆえに多くの人の目に触れられる機会を逸していたのだ。

 そこでハネケ監督は、ハリウッドのマーケットを利用して、より多くの人に自信作「ファニーゲーム」を観てもらおうと考えたわけだ。それは、この作品に込めたハネケ監督自身の思いの強さにほかならない。

 <マーケットを利用する>ということについて言えば、そこに、ハリウッドに対する皮肉を多分に込めている。つまり、キャストを替えてオリジナルとまったく同じカットを撮るという"バカバカしさ"をもってして、ハネケ監督はハリウッド、ひいては世界の映画シーンに異議申し立てをしているのだ。

 約2時間弱のあいだに胸のドキドキを感じない人はおそらく希だろうが、エンドロールが終わったあとに、即座に現実に戻れる人も希だろう。そんな手ぬるい映画ではないし、ある意味、正視するにはタフさが必要だ。血が出るとか、残酷描写とか、そういうことではなく、人間のなかにある凶暴さやこの世の不条理を、ここまで浮き上がらせた作品があるだろうか、ということだ。

 この作品を前にしては、どんなバイオレンスもホラーもスプラッターもなす術がない。スクリーンでくり広げられる悲劇は、お手軽に暴力描写を盛り込む昨今の映画に対する手厳しいアンチテーゼでもある。「暴力ってそんなに甘いものか?」というハネケ監督の声が聞えてきそうだ。

 すべてのカットに強い意思と明確な狙いが感じられ、映画としてすこぶる高い完成度に到達している。カメラ位置、伏線、効果音、長回し。(間違いでなければ)劇中で3度カメラと犯人の目が合う。そして、一度、フィルムが巻き戻される。内容だけでなく、映画的な粋についても、オリジナルの魅力が踏襲されている。

 ハネケ監督が01年に撮影した傑作「ピアニスト」のパンフレットを開くと、ハネケ監督の以下のようなコメントが載っている。

 「私はあらかじめ自分の映画の見方について語ることはしたくありません。なぜなら、そうすると観客は自分で考える必要がなくなってしまうからです。私が提示する事柄に対して、観客自身が挑発されていると感じてほしいのです」

 また、

 「映画は気晴らしのための娯楽だと定義するならば、私の映画は無意味です。私の映画は気晴らしも娯楽も与えませんから。もし娯楽映画として観るなら、後味の悪さを残すだけです」

 そして、

 「私の映画を嫌う人々は、なぜ嫌うのかを自問しなければなりません。嫌うのは、痛いところを衝かれているからではないでしょうか。痛いところを衝かれたくない、面と向き合いたくないというのが理由ではないでしょうか。面と向き合いたくないものと向き合わされるのはいいことだと私は思います」

 ――と

 「ピアニスト」に限らず、ハネケ作品の根底には、常にこうした精神が流れているといっていい。もちろん、本作「ファニーゲームU.S.A.」も例外ではなく。

 衝撃的な内容につき、ハネケ作品の経験者ならまだしも、もしあなたがビギナーなら、覚悟して客席に座る必要がある。この映画を観終わったあと、多くの人が、消耗しきった気持ちを引きずりながら、朦朧とした頭の片隅で、今ある自分の人生の幸福をかみしめることだろう。

 ミヒャエル・ハネケ。人間の暗部と人生の不条理を見つめる鋭い観察眼を武器に、孤軍奮闘する気鋭の芸術家だ。

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