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激映画批評

正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官

◆日本人がいま見ておくべき「先輩」の姿(65点)

正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官

© 2008 The Weinstein Company, LLC All Rights Reserved.

 自民・公明から民主党へ、政権交代が起きたばかりの日本。世襲を繰り返してきた結果、若手に優れた人材が不足する自民党が没落するのは世の必然。結果的にポテンシャルの高い才能が集まり、政権をとったことで今後、さらに人材流入が加速するであろう民主党に、人々が期待を抱くのも当然であろう。

 ただ、そんな新政権・民主党に対して漠然とした不安が残るのもまた事実。とくに、移民に対して彼らがどう考えているかは多くの人が気になる所。

 例によってネット上では、やつらは中韓から何千万人も受け入れるつもりだ、売国政党だ、などと怪しげな情報が飛び交っている。少し考えれば、経団連とべったりの自民党が移民政策を推進するならともかく、労組が支持基盤のひとつである民主党がそんなバカげた政策(移民を入れれば労働者の給料は下がる)を実行できるとはとても思えないのだが……。

 ともあれ、私たち日本人にとっていまや他人事ではなくなってきた「移民問題」を知るのに、この映画は最適だ。「正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官」は、"移民先進国"アメリカでいま何が起きているか、短い時間の中で、多くの有益な情報と示唆を与えてくれる良作である。

 移民関税執行局(I.C.E.)のベテラン捜査官マックス(ハリソン・フォード)は、不法滞在者を取り締まる立場ながら、彼らに同情せずにはいられない人情家。そんなある日、同僚の妹が殺されるが、偶然、前夜に彼女と言葉を交わした彼は他人事とは思えず、独自に捜査を開始する。

 この問題に明るくない人……というより、相当詳しい人以外は多少の予習が必要だ。まず主人公が所属するI.C.E.だが、移民局、という漠然としたイメージで把握すると本質をつかめない。アメリカでは、911テロの後、「不法移民を見ればテロリストと思え」式のピリピリしたムードが続いており、I.C.E.の捜査官たちは少しでも怪しいやつは徹底的に取り締まる。その権限も事件前と比較して大幅に強化され、「テロを未然に防ぐ」錦の御旗の元、下手すれば警察やFBIよりも高い士気を誇っている。

 そんな中、ハリソン・フォードが演じるベテラン捜査官は、古きよき鷹揚なアメリカ人とその良心を象徴するかのようなキャラクター。彼が、愛国心に燃える強硬派の若き同僚たちと衝突する様子から、かの国の現状を読み取ってほしい。

 登場する移民の出身国も多岐に渡るが、その違いを知っておくことも重要だ。

 たとえばイラン移民などは政治的理由によるものが多く、案外裕福だったりするし、ハリウッドを夢見るオーストラリア娘は見た目は美しい白人女性で、われわれが抱く「移民」のイメージとは程遠い。また、母国の将来を誰も信じていないとさえいわれる韓国から来た一家の、この国での生活にかける意気込みは激烈そのものだ。

 移民が弱い立場であることは疑いないが、そんなわけで必ずしも貧乏とは限らないし、弱者にもいろいろ種類がある。その多様性と、それぞれが抱える問題点を、本作は教えてくれる。ちなみに監督のウェイン・クラマーも南アフリカ出身で、本作は昔作った同名短編(日本未公開)のセルフリメイクになる。

 もうひとつ、予習が必要な事項として、アメリカの国籍取得に関するルールについて、がある。アメリカは日本と違って出生地主義なので、たとえ違法移民であろうとアメリカで子供を生めばその子は自動的にアメリカ人になれる。映画の中でも移民一家の子供だけなぜかアメリカ人だったりするが、それにはこういう理由がある。

 さらに、国籍とは違うが永住権(グリーンカード)というものもあり、これを取得するには様々な方法がある。米国人と結婚するとか、宗教関係者であるとか、高額な投資や事業で貢献したとか、スポーツや芸術の才能があるとか、あるいは抽選に応募するといったやり方もある。もちろん、偽装などの犯罪行為を行うものもいる。本作でもそういうシーンがあるし、登場人物たちも、まちまちな方法で永住権をとろうとする。

 彼らの出身国の情勢はまったく描かれない。描かれるのは、あくまでアメリカ国内における立場と境遇だけだ。だが、観客にははっきりとわかる。これは希望のまったくない国の人々が、希望のほとんどない国にやってきているのだ、という現実が。

 豪腕プロデューサーがむりやり30分ほどカットさせたため、かなり説明不足気味ではあるが、この問題に詳しい友人を解説役に誘ってでも、いままさに見ておくべき一本といえる。

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