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激映画批評

ロッキー・ザ・ファイナル

◆スタローンが命をかけて作った一本 (70点)

 おそらく30代以上の男性にとって、ビル・コンティ作曲によるこのシリーズのテーマ曲『Gonna Fly Now』ほど心を奮い立たせるメロディはないだろう。あれが流れ、画面に巨大な「ROCKY」の文字がスクロールすれば、もはやそれだけで感無量、というほどほれ込んだファンも少なくない。

 そんなロッキーシリーズもいよいよこれで大団円。前作パート5もそううたってはいたが、このシリーズを生み出したシルベスター・スタローン自身が「あれは失敗作、だからこれを作った」と語るとおり、さすがにこれ以降はなさそうだ。

 ボクシングを引退したロッキー(シルベスター・スタローン)は、愛妻エイドリアンも亡くし、今はフィラデルフィアで小さなイタリア料理店を営んでいる。ずっと父の栄光と比べられて生きてきた息子からも避けられ、いまや客相手に昔話を繰り返すだけの日々だ。そんなある日、無敵の現役チャンピオン(アントニオ・ターヴァー)と全盛期の自分のシミュレーション対戦をテレビで見た彼は、くすぶる情熱を抑えきれず、ついに現役復帰を決める。

 路上のケンカにまで落ちぶれたパート5と違い、堂々とリングの上で決着する。これぞファンが望んでいたロッキーの姿だ。それにたいしスタローンは、史上最高の役作りをもってこたえる。この映画の後半はほとんどがボクシングの試合場面で、上半身はもちろん裸。しかし彼(監督と脚本も兼ねる)は、構図やカメラワークで隠すことなく、60歳のその体を余すところなく観客へみせる。一切逃げも隠れもしない。なぜならその肉体は、信じがたいことに全ロッキーシリーズを通して最高にビルドアップされたものだからだ。

 シルベスター・スタローンにとって、ロッキーは特別なものだ。無名時代に書き上げた脚本を自身の主演と共に売り込んでアメリカンドリームを達成した彼にとって、シリーズは自分の役者人生そのもの。人気隆盛と凋落を繰り返し、やがて行き着いた最後の一本に対して、いいかげんな気持ちで挑むわけにはいかないという決意のほどがひしひしと感じられる。

 ちなみに彼は公開直前、オーストラリアの空港で禁止薬物(ヒト成長ホルモン=HGH)所持で捕まったが、間違っても「なんだ、結局ドーピングで作った体か」などと思ってはいけない。あの年齢でほかでもない、ヒト成長ホルモンを使っていたということがいったいどれほど重大な意味を持つか、そういうコメントをする人はまったく理解していない。(ここでいうHGHの使用とは、よく精力剤ショップで売られているスプレー剤やら経口剤など、効果ゼロのインチキなやり方とはまったく異なる)

 この薬物は、通常インスリン(一般に糖尿病の治療薬として知られるが、同時に強力なアナボリックホルモンでもある)と組み合わせて使われるが、この2種だけを使用することはまずありえない。その前提として、古くからあるベーシックなアナボリックステロイドを何種類もスタック(同時使用)するのが常識だ。

 つまり、スタローンがHGHを使用していたということは、それ以外にも相当大量の薬物を(おそらく長期にわたり)使っていたと推測できるわけだ。そして、副作用の王様(内臓肥大⇒心筋肥大⇒虚血性心疾患⇒死 まである)たる成長ホルモンを使用していたということは、人類が現在採用できるほぼ最強(かつハイリスク)のドーピングサイクルを彼が行っていたという意味でもある。

 もちろん、寿命は確実に、そして大幅に縮む。五輪で世界記録を目指すトップアスリートでもここまでやる勇気のあるものはそう多くないだろう。まして、CGやボディダブルをいくらでも立てられるハリウッド映画の世界で、いったい誰がそんなバカなマネをするというのだ。しかも彼はすでに成功者であり、金のために無理をする必要もないのだ。

 だからこそ、この映画は感動的といえるのである。『ロッキー・ザ・ファイナル』は、まったく文字通り、スタローンが命をかけて作り上げた渾身の一本。私たちにロッキーをあと一回だけ見せるために、還暦のオヤジがここまでがんばってくれた。

 そんなことを考えていた私は、この完結編では試合よりなにより、トレーニングシーンで涙が出た。なぜそこまでがんばるのか。目の前にいるのはロッキーなのか、スタローンなのか。

 むろん、感情抜きにして批評をすれば、いくつかの不満がないわけではない。たとえば、マイク・タイソンら実在の人物を絡めたあたりはまったくもって不要。ロッキーの世界観はそれ単独で十分魅力があり、無理して現実とリンクさせる必要はない。下手に現実を入れ込むと、演出過剰なボクシングシーンのリアリティの少なさが目立ってしまう。

 ただ、今回はスタローンのすばらしい肉体美と、相手役のアントニオ・ターヴァーの上手さにより、かなりその出来はよい。なんといってもアントニオは、96年のアトランタ五輪銀メダリストであり、前ライトヘビー級の世界チャンピオンだった男なのだ。

 また、このボクシングシーンは映像面に相当凝った演出がなされており、とてもスタイリッシュだ。シリーズの名場面がいくつも挿し込まれ(ただし5は無い)、とんでもなく盛り上がる。

 息子役をヘタレ気味に設定し、続編への未練を断ち切ったあたりも潔い。これをやっておかないと、いずれドラゴンボールになりかねない。

 ともかく、ファンならこれは必見。スタローンが「奇跡」と呼ぶパート1の意思を最も色濃く受け継いでいるのはこの最終版だ。シリーズは1(もしくは2まで)しか認めないという人にこそすすめたいこの1本。年間ベストワンと私が断言するすばらしい予告編をどこかで見てから、期待十分で楽しんできていただきたい。

前田有一氏 高得点批評

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