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人生に乾杯! - 前田有一

80代の老人が強盗に転職(55点)
人生に乾杯!

© M&M Films Ltd.

 ハンガリー映画の小品『人生に乾杯!』は、彼らの国で高齢者が抱える問題をチクリと風刺する作品だが、奇しくも我々日本人にとっても共感できる内容になっている。

 かつて50年代、共産党員の運転手エミル(エミル・ケレシュ)が、ある貴族の館の収用に立ち会った際、運命的に出会った伯爵令嬢のヘディ(テリ・フェルディ)。身分の差を乗り越え一緒になった二人だが、政治制度の大転換や東欧革命を経て、いまや貧しい年金暮らしでさえ破綻寸前であった。やがて思い出の品を借金のかたに取られたエミルは、ついに郵便局強盗を決意する。

 81歳の老人が強盗せざるをえないとは、考えてみれば恐ろしいほどに絶望的な状況である。……が、だからこそ、それはコミカルなタッチで描かれ、夫婦の逃亡劇はある種のロードムービー的な面白さをかもし出す。

 そのニュースを見た町の反応を描くくだりが、本作が社会風刺としての顔をちらりと見せる瞬間といえる。

 ハンガリーは、かつての東欧諸国の中では経済的に成功した部類に入る国だが、それでもやがて外国資本の大攻勢により激しい格差が生まれ、国民の暮らしぶりは悪化した。日本も似たようなものだし、多くの国がそうした道をたどっているのもご存知のとおり。だからこそ、外国の私たちが見ても共感できる。

 警察の手が甘すぎてファンタジーだよなあとか、重苦しい雰囲気が残るせいで鮮やかさに欠けるとか、色々不満はあるが、それを補っているのが、字幕で見ても心に響く名台詞の数々。それでも本当はもう少しコメディに振れば、さらに見やすく普遍性を増したと思うのだが。

 強盗のあと主人公が乗って逃げるのは、かつて運転手時代に支給されたリムジン・チャイカ。このクラシックカーが、なんとものんびりとした雰囲気で、しかし現代資本主義に疑問を投げかけるテーマの象徴となっている。

 重要なアイテムとして登場するこのクルマに、最後まで注目してみてほしい。

前田有一

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