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激映画批評

ティンカー・ベル

◆もっとも有名な妖精、ティンカーベルが4部作に (100点)

© Disney Enterprises, Inc. All rights reserved.

 08年冬のディズニーはアニメーション二本立てだが、先行する『WALL・E/ウォーリー』こそが大本命なのは誰の目にも明らか。こちら『ティンカー・ベル』は、本国アメリカでも小規模にひっそりと公開されたきり。彼らは四部作の壮大なプロジェクトにすると意気込んでいるが、この調子では2以降はビデオのみ、なんてことにもなりかねない。

 ネバーランドにある妖精の谷に、元気で明るい妖精が生まれた。やがてティンカー・ベルの名を授かった彼女(声:メイ・ホイットマン)は、手先の器用さから物作りの妖精となる。ところがティンクは、自分らが作ったものを、憧れの人間界に届ける他の妖精たちがうらやましくて仕方がない。やがてとうとう地味な仕事を捨て、彼女らの仲間になろうとするが……。

 パート2以降が、たとえディズニー得意のDVD用手抜き続編になろうとも、この一作目は期待できる。なにしろ予算が大作なみに付いているから、妖精たちが飛び回る3D-CGも息を呑む美しさだ。出来上がった"春"を人間界に届けるクライマックスからラストシーンに至る一連のシークエンスなどは、ほとんど完璧の一語しか思い浮かばない。

 上映時間が79分間しかないから、ストーリーもテンポよく進む。ウエンディとの出会いの直前までを描く夢あふれる物語は、きっと子供たちも喜ぶはず。この80分を切る上映時間は、対象年齢層の低さを考えれば正義そのもの。時間の長さばかり大作なみのどこかの国と違って、なかなか勇気ある選択である。

 妖精たちを演じる女優らの声は、日本のアニメ声優と違ってみな大人っぽい。顔はかわいい妖精なのにそろって熟女声なんだから凄い話だ。だいたいルーシー・リューなどは、実際に68年生まれではないか。そんな妖精たちが井戸端会議する様子は、さながら SEX and the CITY のようである。

 いまどきの米国製アニメだから、黒人や赤毛、少数民族などのキャラクターがバランスよく登場。ティンクが所属するモノづくり妖精の仲間も、デブとオタクのコンビである。このわかりやすさは、もはや苦笑もの。妖精界でのティンカーベルが、オタク工員たちのアイドルだったとは知らなかった。

 ところでこの作品は、どこから見ても幼女向けのたわいないアニメ作品にすぎないが、その意図するところは恐ろしいほど生々しい。

 たとえばこのアニメ映画をお父さんと娘がみると、娘は美しい映像と夢いっぱいの御伽噺に目を輝かせることだろう。だが、一方のお父さんは、まったく別のメッセージを受け取り涙することになるはずだ。

 いったい映画『ティンカー・ベル』に仕掛けられた隠しメッセージとは何なのか。

 詳しくは皆さん自身で確かめてほしいが、アメリカ発の金融恐慌の原因に深く関わる事ということだけは書いておく。さらにヒントを出すなら、モノづくりの職業を放棄して、空とぶ華やかな仕事にジョブチェンジした妖精ティンカー・ベルとは、現在のアメリカ合衆国そのもの、ということだ。

 この映画は、自信を失ってしまった覇権国家アメリカの労働者を励まし、汗水流す地道な労働を賛美する、まれにみる社会派ムービーである。

 お子様向けアニメーションに、こんな脚本を書き採用してしまうアメリカ映画産業の懐の深さ。それは没落していくこの国の産業の中にあって、凄みさえ感じさせる。

 日本では23日から公開となるが、これをクリスマスに子供と見ることができたら、満点以外になにをつければいいというのか。大人と熟女好きはできれば字幕版でみたいところだが、子供が小さいとそれは難しい。

 映画ライターの間には「子供も大人も楽しめる」という便利な常套句があるが、これを見た後ではもう気軽に使うことはできなくなりそうだ。「子供も大人も楽しめる」のは事実だが、『ティンカー・ベル』の場合、子供と大人にまったく違った物語を同時に見せた上で、それを実現しているのだ。こんな離れ業は、そうそうできるものではない。

 ディズニーと宣伝会社の皆さんは、徹夜でもして精力的にお仕事に励んでいただきたい。こいつをヒットさせられなかったら、それはハラキリものである。

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