◆アニメ版でなく、大林監督版のファン限定作品(50点)
『時をかける少女』にしろ、『サマーウォーズ』にしろ、あるいは『耳をすませば』にしろ、その魅力はどこかノスタルジーを感じさせる点にある。「今では汚れきった俺にも、こういう純情だった時代あったよなぁ」などと感動するわけだ。
だがよくよく考えてみると、自分の学生時代にそんな甘酸っぱい体験などどこにもなかった事に気づく。ある意味、見ただけで欝になりかねない危険な作品群である。
高校3年生のあかり(仲里依紗)の母で薬学者の芳山和子(安田成美)が交通事故で昏睡状態に陥ってしまう。一時的に目を覚ました和子は、あかりに「1972年に行って深町一夫に会わないと……」と謎めいた言葉を残す。そこに母からの願いを読み取ったあかりは、さっそく母が作った薬で過去に戻ろうとするが……。
筒井康隆による原作のヒロイン、芳山和子の「娘」がタイムリープする物語。1970年代、銭湯と同棲とフォークソングの時代で、現代っ子の女子高生が奔走するストーリーだ。
前述の作品群を、10代のころ恋愛しなかった人に見せると激しい拒絶反応を示す事がある。とくに嫌がるのが、マッドハウス製作によるせつないアニメ版『時をかける少女』だ。今回の実写版では、その主人公の声を演じた仲里依紗がヒロインとなる。どうみても、アニメ版のファンをあてこんだキャスティングといえるだろう。
しかし何を考えているのか、監督らは「アニメ版は一切意識せず演出した」などと不協和音を感じさせるコメントを残している。
じっさい見てみると、これはアニメ版でなく原田知世主演の大林宣彦版(83年)を目指し、追いかけたものであることは明らか。わざわざアニメファンのために仲里依紗を出したんだろうに、どうして彼らの好みを無視した映画にしてしまうのか、私にはさっぱりわからない。企画のコンセプトをもっとはっきりさせたほうがいいのではないか。
脚本面の問題としては、いくらでも笑いを取れる70年代と現代のギャップネタをほとんど利用していない点が気になる。端的に言うと、まじめなドラマにしすぎであり、非常にもったいない。お客さんを楽しませ、笑わせるのはエンターティナーにとって基本。そうやってお客さんの心をつかんでこそ、その後の小難しいテーマ性だのにも引き込めるのだ。キャラクターとのシンクロ率を高めることで、後半の感動だって倍増するはずである。
なんにせよ、脚本の煮詰め不足&コンセプト不在。近年の邦画の問題点そのものといった感じの仕上がりであった。
(前田有一)
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