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激映画批評

2012

◆どう考えても映画史上ナンバーワンのスペクタクル(80点)

2012

 『2012』には、人々がローランド・エメリッヒ(「デイ・アフター・トゥモロー」(04)、「インデペンデンス・デイ」(96)監督)に望むものがすべてある。彼の映画を好きな人なら、この秋必見の超大作である。

 不本意ながらリムジンドライバーとしてなんとか生計を立てている作家のジャクソン(ジョン・キューザック)は、離婚した妻の元で暮らす子供たちとイエローストーン公園にやってきた。ところが思い出の湖はすっかり干上がり、なぜか政府機関と思しき男たちが周辺を閉鎖していた。その後、彼はチャーリー(ウディ・ハレルソン)と名乗る怪しげなDJと出会い、もうすぐ世界が終わるなどと聞かされるが……。

 バカげたスケールのストーリーを開陳し、人間賛歌のテーマを謳いあげるエメリッヒ監督は、今回はマヤ終末説を取り上げた。これは今、アメリカを中心に大流行中のテーマ。要は2012年に人類が滅亡するというものだが、根拠としては惑星直列だのマヤの予言だのと色々あげられている。

 キリスト教文化圏に関わらず、終末説は世界中のあらゆる地域で見られ、あたかも人類の深層心理に巣食うトラウマのようになっている。ノストラダムス予言の記憶も冷めやらぬ今、新しい「人類の終わり」に人々が熱中するのは当然といえる。NASAには毎日「滅亡するのか?」と問い合わせが殺到し、終末が怖いから自殺するという人すらいる。罪作りな話だが、こういう騒ぎは昨日今日始まったものではない。

 米映画界でも、同じく超大作請負人のマイケル・ベイ監督がこのネタで新作を準備中で、流行が続く限り(つまり2012年まで)、このプチバブルは続きそうだ。

 さて、話は戻ってエメリッヒ監督だが、この人の映画はいつも単純明快。ロマンティック、ドラマティック、そしてトンデモ。この3本柱が彼の魅力だ。何が気に入らないのか、それを批判するうるさ型のマニアが少なくないが、こういう映画を作る人がいなくなったら間違いなく映画業界は(この映画の大都市のように)沈むだろう。

 さて、上記3つの要素を本作は、これまで以上に完璧に満たす。地上が景気よくぶち壊れていく中、猛烈な行動力と家族への愛、そして強力な運に恵まれた主人公たちだけが、圧倒的不利な状況を切り開いてゆく。

 今回の全地球規模の大災害の前には、天下の米軍さえ無力。その代わりに力を発揮するのが、ある国である。先進国首脳による極秘会議の結果、この国であるものを作り、人類は最後のサバイバルに挑むのだ。

 私はこの設定を見て、笑いが止まらなかった。人類を救うのがメイドイン○○とは恐れ入った。

 もしこの映画を「非現実的」という人がいたら、バカを言うなといってやりたい。そういう人たちはいったいどこを見ているのか、こんなにリアルな設定はないではないか。この地上の中で、あれを作れる技術力と経済力と奴隷酷使力があり、他の国民やマスコミを完璧にシャットアウトできる国など他にない。まともな人権感覚がある国では絶対に不可能なのである。

 これまでパニック映画は、人類生存のためのプロジェクトを美談扱いしてきたが、『2012』はついにその現実を描いた。美談の裏には奴隷たちの犠牲があり、命よりも美術品を優先する姿があるのだ。注意深くみればこの映画が描いているのは、むしろその裏側のドロドロの方だとわかる。

 こういうストーリーを涼しい顔をして作ってしまうエメリッヒという監督は、只者ではない。一見能天気トンデモパニック映画にみえるが、本作は皮肉のスパイスがたっぷり効いた社会派な一面を持っている。

 たとえばアメリカ人たちが死に物狂いで「あるもの」を目指して生き延びようとする姿を、悠々と眺めるラマ僧を描写するあたりは、確信犯以外の何者でもあるまい。そもそも、ヒーロー風に描いている主人公たちは、本当にいい人たちだったのか? 善人だが、よく考えたらよそ様に多大な迷惑をかけていなかったか。考えるほどに、一筋縄ではいかない、意地悪な物語構造である。

 それにしても『2012』は現代的で、面白い映画だ。具体的に言うと、これまでこの手の映画で目立っていた他の先進諸国の、なんと影の薄いことよ。とくにアメリカ軍の凋落ぶりはひどい。96年当時は異星人を撃退してくれたのに、今では何の役にもたちゃしない。これは、現実社会における米軍人気が下がっている証左でもある。映画は時代を映す鏡、ということだ。

 流行と世相を取り入れ、そこに映画史上おそらくナンバーワンの物凄い大破壊スペクタクルの分厚いコーティングを行った超大作。このとんでもないド迫力映像を見られるだけでも1800円は安すぎるし、さらには単純なお涙頂戴とは一味違う、上記のようなアイロニカルなひねりも加えられている。

 どう考えてもこれを見ない手はない。少なくとも「損をした」と感じる事はまずないから、安心してお出かけあれ。

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