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ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない

◆高校生に授業で見せるべき映画(70点)

ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない

© 2009 ブラック会社限界対策委員会

 この秀逸なタイトルは、原作となった2ちゃんねるのニュース速報(VIP)板におけるスレッドの名前から取ったという。とくに「ブラック会社」という、最近よく聞く用語の名づけが上手いと思う。

 若いころに勤務した会社が倒産したりして、結果として多数の職場を転々とする事になった私も、「ブラック会社」については身をもってよく知っている。当時のつらい経験のおかげで、求人広告を見ればその会社が黒か白かだいたい判別できる能力を得たが、現代はそんな苦労をせずともインターネットのおかげで若い人は「ブラック企業」を避ける事が出来る。

 「ブラック企業・会社」がいかに労働者の人権を踏みにじり、人間の尊厳を破壊するか。それを考えれば、彼らの情報が広まるのは大変良いことであろう。

 8年間引きこもりをしていた青年「マ男」(小池徹平)は、母親の死を契機に就職活動を始める。やがて小さなIT系企業に合格したが、そこは俗に言う「ブラック会社」だった。入社日から想像を絶する出来事ばかりで早くも精神的限界を迎えるが、人格者の藤田さん(田辺誠一)に励まされ、なんとか踏みとどまる。だがマ男の前には、真に恐ろしい通称デスマが、すぐそこまで迫っていた。

 デスマとはIT業界のスラングでデスマーチ、すなわちその仕事を終えるまで、決して途中離脱できない行軍をするかのように徹夜で作業を行う事を言うらしい。原作者でマ男のモデル・黒井勇人氏とは、今でもデスマ中には一切の連絡が取れなくなってしまうそうだ。

 本作はシチュエーションコメディとして非常に優れており、ブラック会社経験者はもとより、社会人であれば誰でも共感できる部分があり楽しめる。

 誤解されがちだがこれは社会批判ではなく、男がひとり立ちするまでの成長物語。なので、必要以上に上司や会社に反感を抱かぬよう、むしろお茶目で憎めぬ形に描いている。無理難題を押し付けるリーダーにお笑い芸人の品川祐を配役するあたりにも、その狙いが見て取れる。彼の怒鳴り声が笑いを呼ぶようにしなくては、この物語は成立しない。そんなわけで現代版蟹工船というか、労働者の戦いのようなものを本作に期待してはいけない。

 個人的には、こういう会社には痛い目にあってほしいと思うし、現実がこんなに生易しいものではない事もよくわかっている。

 しかし、それを言った所で世の中が簡単に変わるはずもない以上、また、すべての物事にはいい面と悪い面があるという見地からも、この映画のように現実的な対処の大切さをこそ描く事には全面的に賛同する。

 いま、若い人たちに必要なのは、現実社会の問題点を悲観的に伝える事でも、反対に祖国を必要以上に美化して愛国心を強制する事でもない。それよりも「働くものの心構え」を教えてあげる事が肝要だ。これは、社会経験の乏しい学校の先生方には難しい事かもしれないが、誰かがやらなければならない。

 『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』の素晴らしいところは、主人公が試行錯誤の上、なんとか現実と折り合いをつける結論が、きわめて重要な真理、まさにその「働くものの心構え」を表現しているところだ。

 社会に出るものは、強く、たくましくなければいけない。その「強さ」は直接的な、肉体の強さをも含む。体が強くなければ、心は強くならない。

 その強さを身に着けるための時間が残っている若い人たち。まだ「間に合う」人たちにぜひ本作の鑑賞をすすめたい。学校の先生が教えてくれない真実の一端を、この作品はたくさんの笑いとともに教えてくれるだろう。

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