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米映画批評

TAKING WOODSTOCK

◆なぜアン・リーが今更ウッドストック!?(65点)

 1969年8月15日?18日、ヒッピー達は熱狂した。今もなお伝説として語り継がれているウッドストック・フェスティヴァル。ロックやドラッグ、そして雨が予期しなかった伝説を作り出した。1970年にマーティン・スコセッシが編集したドキュメンタリー映画『ウッドストック』はそのミュージック・フェスティヴァルを記録として残したもので、アカデミー賞ドキュメンタリー映画賞を受賞した。あの歴史的事件から40年、映画『TAKING WOODSTOCK』はそんな音楽の祭典の裏をコミカルに描く。わたしたちは今まで知らなかった事実を知る事となるのだ。

 本作の監督を務めるのは『ブロークバック・マウンテン』でアカデミー監督賞を受賞したアン・リー。なぜ彼が今ウッドストックなのか? まずその疑問が多くの人の頭を過るはずだ。まず、ウッドストックが開催された時、アン・リー氏は15歳だった。白黒テレビの中で、長髪でギターを弾く男達や音楽と愛に溢れた音楽祭に熱狂する若者達の姿は強烈に彼の記憶に残り、彼の頭の中で「ウッドストック」というものが1人で徐々に成長していった。

 しかし、アン・リー氏はドキュメンタリー映画の金字塔とも言うべき『ウッドストック』が存在する以上、フェスティヴァル自体を語る映画を作っても意味がないと考えた。そこで、彼の前作『ラスト、コーション』のPR時に出会ったエリオット・タイバーのウッドストックにまつわる自伝『ウッドストックがやってくる』を基に、アメリカの小さな町でウッドストック・フェスティバルが開催される事になった足跡を辿る物語を作る事にしたのだ。

 本作の物語の主人公は20代前半のエリオット・タイバー(デミトリ・マーティン)。彼はインテリアデザイナーとしてニューヨークで働いていたが、同州のベセルという小さな町にあるユダヤ系ロシア人の両親(ヘンリー・グッドマン&イメルダ・スタウントン)が経営する借金まみれのモーテル、エル・モナコを破綻から救うため帰省する。そこで、ウッドストックの当初の予定地ウォールキルでは住民の反対により開けなくなった事を知り、地元ベセルでの開催を思い付く。そしてそこへ主催者であるマイケル・ラング(ジョナサン・グロフ)率いる一団が現れる。それが全ての始まり…。

 本作の興味深い点は、例えフェスティヴァルが始まっても、カメラはその中心に行く事はなく、モーテルの周りで起こっている出来事を撮っている事で、何かにつけ文句を言う母、フェスティベルに何故か協力的な父、ベトナム戦争のトラウマを抱える帰還兵のビリー(エミール・ハーシュ)、女装した警備員ヴィルマ(リーヴ・シュレイバー)との主人公との関わりが描かれていく。そしてんな環境で、伝説が生まれる原因を作った1人の小さな小さな青年が生まれ変わっていくのだ。

 アン・リーは『アイス・ストーム』から『ラスト、コーション』まで6作続けて悲劇を撮った。しかし、彼は今回歴史的出来事を交えたコメディ映画を撮り、その作品からポジティヴな印象を与える。ウッドストック・フェスティバルは反戦運動やフラワームーブメントの最中に起こった実に真面目で前向きな時代の産物。そこでは何もかもが可能であり、多くの若者の人生を変えた。

 そんなウッドストックという出来事を象徴しているのはエリオットがあるヒッピーのカップル(ポール・ダノ&ケリ・ガーナー)とLSDでトリップするシーン。トリップしたエリオットは遠くからステージを下に眺める。すると、ステージから神々しいばかりの光が天に向かって吹き出る。人々の温もり、愛、そして創造性が溢れ出したのだ。皆の想いが1つになる瞬間を目撃してしまった青年はゲイというアイデンティティを優しく受け止める。

 1969年当時を生きた人の中には「人生での一番の悔いはウッドストックに参加しなかった事」と言う者も少なくない。それ程、あのフェスティバルは意味のあるものだった。本作はおそらく多くの人がアン・リーに期待した作品ではないだろう。しかし、彼はあの出来事から40年経った今、「ウッドストック」を知らない世代にも語り継ぐストーリーテラーとしての役割を担ったのだ。

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