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米映画批評

(500)日のサマー

◆男性目線で、恋愛を真摯に描くキュートな作品(75点)

(500)日のサマー

© 2009 TWENTIETH CENTURY FOX

 恋に落ちると、相手を運命の人であると感じる人も少なくないだろう。それは果たして本当に運命なのか、ただ単に偶然なのか、わたしたちには分からない。恋愛は謎だらけなのだ。映画『(500)日のサマー』は、わたしたちを悩み苦しませる恋愛というものを、多くの映画が作られた大都市ロサンゼルスを舞台に正直なアプローチで描く。しかしながら、ここで一言、この映画はラブストーリーではない。

 今年のサンダンス映画祭で話題を集めたこの映画の監督を務めたのは本作が初監督作品となるマーク・ウェブ。彼のこの映画での正直なアプローチとは、まずこの映画が恋愛映画ではなく、恋愛について語っているが通過儀礼映画である事が述べられる。本作はロマンティクムービーの皮を被った主人公の成長物語で、普段語られる事のない、恋に落ちた全ての男性の心の声を聞く事が出来る。

 本作の主人公はジョセフ・ゴードン=レヴィット(『BRICK/ブリック』『G.I.ジョー』)扮するコピーライターとしてメッセージカード会社に務める 20代の男子トム・ハンソン。ある日、彼のボスが新しいアシスタントを紹介する。ズーイー・デシャネル(『ハプニング』『イエスマン"YESは人生のパスワード"』)扮する彼女の名はサマー・フィン。一目で恋に落ちるトム。それから彼のサマーとの500日が始まる。

 このマーク・ウェブ監督作において、最も成功しているのはキャスティングだ。雰囲気女優のズーイー・デシャネルはいつもの様に独特のオーラを放ち、彼女の魅力を振りまくが、彼女と素晴らしいコンビネーションを見せるジョセフ・ゴードン=レヴィットが特に賞賛に値するパフォーマンスを披露している。インディペンデント映画に好んで出演する彼だが、今回は今までに見せた事のない歌とダンスで魅了する。演技も20代男性の心境をリアルに表現し、まさに何でも出来る俳優である事を本作で証明している。

 トム・ハンソンは恋愛には奥手。サマーに惚れてしまっても、自分で彼女に声を掛ける事さえ出来ない。しかし、会社のエレベーターの中で、サマーと2人きりになった時に彼女はトムに話し掛ける。「わたしもザ・スミス好きよ」と。それはトムがヘッドフォンで聞いていた音楽だった。サマーとの共通点を見つけ舞い上がるトム。またそれを機に2人の距離はどんどん縮まってゆく。まるで理想的なカップルであるかの様なトムとサマーだが、彼らは恋愛に対し全く違う価値観を抱いていた。

 サマー・フィンは愛の存在には懐疑的な女性。だから美人でモテモテだが、恋人は作らない主義。恋愛は波に身を任せる様に楽しむもの、という彼女の考えは、サマーを自分のものにしたいトムにとっては実に厄介だ。トムはサマーの事で頭がいっぱい。しかし実は彼女が何を考え、何を求めているのか分からない。本作では主人公トムを実に緻密に描いているが、それに比べるとサマーの描き方が浅い。よって観る側はサマーにはなかなか感情移入しにくいに違いない。しかし、肩肘張らずに恋愛というものを楽しむ彼女のフレキシブルさは、実はトムに必要な要素であり、トムに共感してしまった人こそサマーから学ぶ事があるのかもしれない。

 この物語の時系列はバラバラで、恋愛とは何かを知る上で必要な経験をパートごとに見せてゆく。本作は実験的な雰囲気が漂い、始めから明確にこの映画を作る意味を分かって作られた映画ではなく、映画を制作して行く中で描きたい事を明確にしていった感が伺える探究心溢れる作品だ。またそれゆえ、トムとサマーに一体何が起こるのか観る側としては全く予想が出来ない。本作はハリウッドのロマンティックコメディを連想させる描写もあるが、時に60年代あたりのフランス映画を思わせる事もあるだろう。

 恋愛において大事な事、それはその経験が人生の中のある段階に過ぎず、いずれ人生において大事な意味を持つ事を知る事。そしてそれこそが恋愛をする醍醐味である事。そういった事は普段時間が経ってからしか気付く事ができないが、本作は例え今は苦しんでいるとしても心配はいらないと優しく語りかけてくれる。男が主人公の恋愛映画はあまり作られる傾向にない。これは世界共通だ。しかし、男性目線でありながらも、本作は1人の男の成長の過程で恋愛を真摯に描き出す。特に男性は心を乱されてしまうリアルな映画だ。

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