◆ハリソン・フォードが初めてメジャー作品以外に出演した社会派ドラマ(60点)
移民国家であるアメリカの抱える問題の1つに違法移民問題がある。元々違法に入国した者、ビザを持って入国したが滞在中にビザが切れてしまった者、違法移民にも様々な形があるのだが、そんな彼らに共通して言える事は、皆アメリカでチャンスを掴みたいという事。しかし、彼らの事情はどうあれアメリカは国を守るという立場を優先しなくてはならない。特に9/11後は対テロのため移民管理がより厳しくなり、違法移民は随分と居心地の悪い思いをさせられている。映画『正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官(原題:CROSSING OVER)』はそういったアメリカの違法移民問題を浮きぼりにするシリアスな社会はドラマだ。
本作の監督脚本を務めるのは『ワイルド・バレット』のウェイン・クラマー。南アメリカ出身の彼自身が移民であり、2000年に市民権を得た彼にとっては本作の題材は人事ではなかった。クラマー氏の脚本はハリソン・フォードを惚れ込ませ、なんと彼のキャリアで初めてメジャー作品以外の映画への出演を決定させたのだ。ハリソン・フォードは今回、違法移民達が働く工場等に踏み込みを行う連邦移民局員マックスを演じ、そこで『ブラインドネス』のアリス・ブラガ扮するメキシコ人不法滞在者の女性ミレヤに出会い、仕事と良心の狭間で葛藤する。
本作の様に近年違法移民問題を描いた政治的な映画では『クラッシュ』や『バベル』等がある。本作もまたそれら同様アンサンブル映画で、移民管理がアメリカ一厳しいとされるカリフォルニアを舞台に物語が展開する。登場人物も非常に多く、レイ・リオッタ、アシュレイ・ジャッド、ジム・スタージェス、アリス・イヴ、クリフ・カーティス、ジャスティン・チョンらがそれぞれアメリカ人、不法滞在者(不法滞在者の親の基で育った子)を演じている。
登場人物の中でも最も強い印象を残すのは『TOWELHEAD』でインディペンデント・スピリット・アワードの最優秀主演女優賞にノミネートされた中東系女優サマー・ビシル。彼女が扮する幼い頃にバングラディシュから両親とアメリカに移住して来た15歳のイスラム教徒の女の子タスリマは学校の課題で人に9/11の飛行機ハイジャックを支持すると取られてもおかしくない様な論文を書き、それが原因となりF.B.Iに尋問され不法滞在者という身分から拘置所に送られてしまう。ビシルは表現の自由が仇となり現実に追い込まれてしまう少女を熱演し涙を誘う。
異国で移民の立場であると、ステータスを保つ事(ビザの確保等)が常に心配事の1つとなる。アメリカではグリーンカードの力が大きく、それを得る為に移民がアメリカ人と結婚したり、大金を払う人も少なくない。なぜなら、持っていれば合法に仕事が出来、入国が簡単に出来るグリーンカードが人生のチャンスを得る可能性を高めてくれるからだ。『正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官』を観ると、アメリカには希望を信じる違法移民達が必死に生活している事実があり、ブッシュ政権が終わりを告げた今、彼らをどう救うのかが大きな課題なのだと感じさせられる。
(岡本太陽)
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