◆オリヴァー・ストーン監督が描くジョージ・W・ブッシュの人生(60点)
アメリカに深い闇を落とした男ジョージ・W・ブッシュ元大統領。オバマ氏が大統領になった事で、アメリカには再び希望の光りが差し始めた感があるが、ブッシュがアメリカに作った傷はとてつもなく深く、オバマ大統領はまずその傷を癒す事から始めなくてはいけない。映画『ブッシュ』は大統領という座を手にしては堕ちたブッシュの人生を描く伝記映画だ。
まず、『ブッシュ』では特にブッシュに関する新しい事実は述べられない。また、これはブッシュ批判の映画としても作られていない。『プラトーン』『7月4日に生まれて』のオリヴァー・ストーンが監督を務める本作は、コネチカット金持ちの家に生まれ、親のコネで名門イェール大学へ行くが、勉強が全く出来ないため父親に出来損ない扱いされて育った1人の男の歩んだ人生の足跡を辿る映画で、イラク戦争を引き起こしたブッシュが悪人としては描かれていないのは注目すべき点である。
それどころか、むしろブッシュという男に共感してしまう様に描かれているのが面白い。後に米国大統領になる父ブッシュにコンプレックスを抱き、父親に好かれたい一心で戦争を始めてしまったW(ダブリュー)。彼にとって戦争は正しい決断のはずだった。物語にこんなシーンがある。ある記者会見の際に、彼は「大統領としてどんな間違いを起こしたか」という質問をされる。しかし、彼は動揺し、その質問に対し答えられない。この様な質問ならば何とでも答えられそうだが、あまりの彼の正直さが災してしまう。
今回、『ノーカントリー』『ミルク』のジョシュ・ブローリンがジョージ・W・ブッシュを演じているのだが、何ヶ月もブッシュを研究したり、テキサスの人々の訛りを聞いたりして彼が作り上げたブッシュはもはや本人そのもの。ブッシュの若かれし時も40歳くらいに見えてしまうのを除けば、完璧に近い物真似だ。
息子をことごとく卑下する父ブッシュをジェームズ・クロムウェル、母バーバラ・ブッシュをエレン・バースティン、妻ローラ・ブッシュをエリザベス・バンクス、ディック・チェイニーをリチャード・ドレイファス、コリン・パウエルをジェフリー・ライト、コンドリーザ・ライスをタンディ・ニュートン、ドナルド・ラムズフェルドをスコット・グレン等錚々たる演技派俳優達がそれぞれ演じているが、ブッシュ一家はともかく、物真似された政府の重役達が一斉に集う光景は実に奇妙である。特にタンディ・ニュートンはサタデーナイトライブで誰かがコンドリーザ・ライスを馬鹿馬鹿しく真似している様にしか見えない。
全ての悲劇は喜劇であるという言葉がある様に、オリヴァー・ストーンが世界を混乱に陥れてしまうジョージ・W・ブッシュという男をシリアス過ぎず、コメディタッチで描いているのは意外で、そこは好感が持てる点だ。アメリカを攻撃していないイラクに対し戦争を仕掛け、そこに地獄を生み出してしまった事実は笑い事ではないが、単にプライベートな事情で戦争を初めてしまった彼は、これからも笑いの種として生きるギャグとしてこれからも歴史に生き続けるだろう。
物語の中で、何度かブッシュが客のいないベースボールスタジアムで1人で野球をしているシーンが登場する。これは大統領時の彼の姿を象徴している。彼は夢見た場所でプレイしているが、それを歓迎してくれる人が誰1人としていない。ただ彼の耳にはそこにはいない人々の歓声が響くだけだ。映画『ブッシュ』を観るとブッシュという男は政治家ではなく、パフォーマーであったのだという事に気付かされる。
(岡本太陽)
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