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米映画批評

スラムドッグ$ミリオネア

◆ダニー・ボイル監督最新作はなんとボリウッド映画!? (85点)

スラムドッグ$ミリオネア

© 2008 Celador Films and Channel 4 Television Corporation

 『スラムドッグ$ミリオネア(原題:SLUMDOG MILLIONAIRE)』はイギリス人映画監督ダニー・ボイルの新境地だ。物語序盤に何人もの子供達がムンバイの狭い路地を駆け抜ける。そのフレッシュで生き生きとしたエネルギーにわたしたちは心を打たれる。そしてそれはボイル氏の『トレインスポッティング』を否応無しに連想させるはずだ。この映画は間違いなく1996年の彼の傑作映画以降最もわたしたちの血を踊らせる作品だ。

 『スラムドッグ$ミリオネア』の原作はヴィカス・スワラップの書いた『ぼくと1ルピーの神様(原題:Q&A)』。ストリートキッドの主人公が『クイズ・ミリオネア』を勝ち抜いて行くという物語。それを基に 1997年の映画『フル・モンティ』のサイモン・ビューフォイが脚本を手掛けた。原作と映画では内容が随分と違い、映画版はクイズ番組の問題数も少なく、スピーディな展開となっている。また『モンスーン・ウェディング』のキャスティング・ディレクターだったラブリーン・タンダンが共同監督を務める。

 物語はデヴ・パテル扮するムンバイのストーリート育ちのジャマールがアニル・カプール扮する胡散臭い男が司会を務める「クイズ・ミリオネア」で10億ルピーを手にするまであと1問というところから始まる。最終問題は翌日。ジャマールはスタジオを去ろうとするが、彼はイカサマの疑いで警察に逮捕されてしまう。なぜなら彼は浮浪者の様な生活をしており、まともな教育も受けていないからだ。無実を晴らすためにジャマールはクイズ番組に出場する事になった経緯を語り始める。

 ジャマールは幼い頃に偶然ラティカという少女に出会う。「三銃士はアトスとポルトス、もう1人誰だっけ?」と実は全員の名前を知らないジャマールだが、ちょっと意地悪な兄サリム、ラティカと3人でいると三銃士になった気持ちになれた。ところがある日、ラティカとは生き別れになってしまう。幼いながらもラティカへの恋心を募らせるジャマールは兄とインチキ観光ガイドとして金を稼ぎながらラティカを探す機会を待つ。

 これはラブストーリーだ。ジャマールは長い間ラティカを一途に思い続け、それが「クイズ・ミリオネア」への出演のきっかけになり、国中を巻き込むドラマへと発展する。ラティカもまたジャマールだけを思い続けており、物語はまるでお伽話の様にドラマチックだ。特にジャマールが最後の問題と向き合うシーンでは、本場のテレビ番組を上回る程の手に汗を握らざるを得ないクライマックスを迎える。

 また、本作がラブストーリーである事と、途中でいなくなってしまう母親や何かと弟に辛く当たる兄(いわゆる悪役)の存在が典型的なボリウッド映画の雰囲気を作り出している。もともとダニー・ボイル監督の作品は寓話的な物語が多く、現実離れした作品も少なくない。『スラムドッグ$ミリオネア』はボイル氏のスタイルを貫きつつ、ボリウッドスタイルを取り入れている非常に新感覚の映画だ。

 ダニー・ボイルは映画音楽にこだわりを持つ監督であり、この映画では世界的に活躍するインド人作曲家A・R・ラーマンが映画音楽を手掛けている。その躍動感に溢れる劇的な音楽はエモーショナルとも表現出来る。また、M.I.A.がサウンドトラックに参加しており、特に彼女の曲「Paper Planes」が印象的だ。ラティカと離ればなれになり、ジャマールとサリムが2人でインドを電車で放浪している時にこの曲が使われており、過酷なはずの彼らの状況がどこか楽しそうにも冒険の様にも見えてしまう。

 『スラムドッグ$ミリオネア』は、1人のストリートキッドがある日突然億万長者になるかもしれないという、まるでファンタジーの様な夢物語。しかし貧困、宗教問題(ヒンドゥー教とイスラム教間)、売春、そして子供を誘拐し、彼らに金を稼がせる集団等、大袈裟ではないインドで実際に起こっている問題も物語の中で描かれる。ジャマールには学はないが、彼はパワフルな人間。だから、例えいくつもの問題に直面しても、彼にはそれらをうまくすり抜けて行ける器用さがある。そんな彼の生まれ持った性質が羨ましくすら感じられる。

 ダニー・ボイル監督は『28日後…』でゾンビ映画に挑戦、そして次の『ミリオンズ』では子供が主人公のファンタジー風の物語を作り、『サンシャイン 2057』ではSFスリラーを手掛け、毎回ファンの期待を良い意味で裏切っている。『スラムドッグ$ミリオネア』はダニー・ボイル作ボリウッド映画。ボリウッド映画にはダンスが欠かせない。エンドクレジットでわたしたちは目を疑う驚愕の光景を目の当たりにすることになるだろう。これは再びボイル氏に裏切られた感が心地良い力作だ。

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  • 監督:ダニー・ボイル
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