◆小津映画を彷彿とさせる岩松了監督作品。オダギリ・ジョー主演。 (75点)
長崎県出身のマルチな才能の持ち主、岩松了。俳優、映画脚本家、劇作家等々活躍するフィールドは多岐にわたる。近年では『イン・ザ・プール』『図鑑に載ってない虫』等、三木聡監督の映画にしばしば出演している。その彼は15年前の1993年に小林薫、田中好子等が出演する『お墓と離婚』という映画を監督した。その後は映画を監督する事はなかったのだが、長年の時を経て新しい岩松了監督映画が誕生した。彼の新作は『たみおのしあわせ(英題:THEN SUMMER CAME)』というユーモア溢れる作品で、主演にオダギリ・ジョーを迎えている。
父にいつも「はやく結婚しろ」と言われて続けている民男は、見合いを重ねる日々を送っている。そんなとき、父の働く会社の社長の知り合いの娘とお見合いすることに。父はその瞳という女性を「あんなに良いオンナは後にも先にもない」と大絶賛。そんな清楚で美人の瞳に民男も惹かれていく。ある日、民男ははじめて瞳を家に招待する。民男と父と瞳は寿司を囲んで団らん。そして民男が瞳を駅まで送りに行ったとき、意外な事に瞳の口から「結婚して下さい」の言葉が。案外すんなり結婚話が進む事になった民男だが、周りに翻弄されちょっぴりほろ苦いドタバタ劇に巻き込まれてしまう…。
主演は現在常に映画界の第一線で活躍するオダギリ・ジョー。本作ではオクテなタミオを演じている。父親役にはベテラン俳優の原田芳雄が起用され、社内恋愛を繰り返すちょっとクセのある父親を好演している。民男の婚約者である瞳は日本の映画女優麻生久美子が演じる。瞳は物語の中で一番ノーマルに見えるキャラクター。しかし、物語が進むに連れて彼女が実はどんなキャラクターなのか分かる設定になっている。その他には小林薫、大竹しのぶ、石田えり、冨士眞奈美等個性的な俳優が名を連ねており、それぞれが重要なキャラクターを演じている。また、シーンは少ないものの強烈な印象を残すのは忌野清志郎。「携帯で電話させないように面白い話をしろ」という得意文句が笑いを誘う。演技派ばかりが集まったこの映画はまさに演技合戦と言っても過言ではない。
監督の岩松氏によると、この映画のアイデア自体は20年前のもので、CMの企画だったという。その当時、脚本は書いたものの、誰もそれを理解出来る人がいなかったため、その企画は闇に葬られた。しかし、そのアイデアを温め続けた岩松氏は素晴らしい俳優陣を集め映画として発表することになったのだ。
「結婚」という人生の一大イベントを通して、「しあわせ」とは何かを問いかけるこの作品だが、その物語の中でも特にわたしたちを刺激するのは親子のコミュニケーションのあり方。民男と父は何年もずっと一緒に住み、会話もあるが、意思の疎通はまるでできていない。きっとそれは相手の見たいところだけを見ようとしているからではないだろうか。関係性が近過ぎると、期待等が邪魔をし、相手のありのままを受け入れることが難しい時もあるのだ。映画の中で民男と父がはじめて意思の疎通が出来たとき、それはつまりラストなのだが、今までに見た事のないドラマが生まれる。
また、この映画で度々登場するのは携帯電話。人と一緒にいるときでも携帯電話をいじる行為はもはや日本では見慣れた光景。その光景はこの映画の中では少々いやらしく映る。そんな中、麻生久美子演じる瞳は携帯電話を持たない。岩松監督はこう言っていた。たまに携帯電話を持っていない人に会うと妙に好感を抱き、逆に、監督自身も携帯電話は持っているが、携帯を持っている人に対してはあまり好感は抱かない、と。その事がこの映画にも反映されており、わたしたちも監督と同じ気持ちを体験する。
可笑しくて、でもちょっぴり切ないこの『たみおのしあわせ』は、どこか小津安二郎の映画の様な雰囲気を漂わせ、尚かつ時にアルモドバルに代表される様なスペイン映画的要素も含んだユーモアたっぷりの作品だ。『サイドカーに犬』等の様な最近の日本のコメディドラマ独特の路線を行くこの映画は、上質でさりげない感動を運んでくれる夏に吹くそよ風の様だ。15年振りに放つ岩松了の新作はニューヨークでワールドプレミアを迎え喝采を浴びた。これから日本、そして海外での評価が期待される。





























