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米映画批評

扉をたたく人

◆トム・マッカーシーが描く人生をもう一度謳歌し始める男の物語(80点)

扉をたたく人

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 2003年に公開された『The Station Agent』、ピーター・ディンクレイジ主演で有名な作品で、『エデンより彼方に』、『エイプリルの七面鳥』と並ぶ女優パトリシア・クラークソンの代表作でもある。監督トム・マッカーシーが心に染みる素晴らしい脚本を書き、この映画はその年のインディペンデント・スピリット・アワードで初脚本賞を受賞している。

 トム・マッカーシーは監督としてよりも俳優としての方が有名で、昨年は『Year of the Dog』や『フィクサー』に出演している。その彼が2003年の『The Station Agent』に次ぐ監督2作目の映画を発表した。今回も彼自身が脚本を務める『扉をたたく人(原題:The Visitor)』というその作品は2007年のトロント国際映画祭でプレミア上映された。

 62歳の大学教授ウォルター(リチャード・ジェンキンス)は妻と死に別れ、それ以来本を書く事にも、教える事にも情熱を燃やせず憂鬱な日々をコネチカットで送っていた。ある日彼はコネチカットの大学にニューヨーク大学での会議に出席するように言い渡される。しばらく訪れていなかったがニューヨークのダウンタウンにアパートがあるウォールターは、鍵を開けそこに入るが、何か様子がおかしい。人がいるようだ。明かりの点いているバスルームを除くと、そこには見知らぬ女性が。悲鳴を上げる女性。ウォルターが彼女に落ち着く様に説得している間に、彼女の彼氏が戻って来る。彼はウォルターに掴みかかるが、ウォルターは彼にこのアパートは自分のものだという事を証明する。知人に騙されて住んでいたその男女、シリア出身のタレクとセネガル出身のゼイナブはアパートを去ろうとするが、ウォールターは行く所の無い彼らを不憫に思い、アパートにしばらく住まわせる事にする。そして彼はタレクの演奏するジャンベとの出会いを機にその素敵な青年と友情を深めていくのだが…。

 悲しい出来事が降り掛かり、それでも日常は続いて行き、それを続けていると人生に対して不感になってしまう。まさにその状況を抱えているのがこの映画『扉をたたく人』の主人公ウォールター。彼の妻はコンサートピアニストだった。憂鬱な生活の中で彼を癒すのは音楽だけ。妻との絆を繋ぎ止めようと62という高齢達してもピアノを習おうとするウォールターだが、妻の残した美しいピアノはあるものの、なかなかうまく弾く事が出来ない。

 そんな彼がアパートに住まわせるタレクと急速に友情を深めていき、彼の演奏するジャンベにはまってしまう。考えながら叩いてはダメだとタレクに言われ、ただリズムに乗ってジェンベを演奏している時間はウォルターにとって味わった事の無いものだった。音楽を通してまた情熱を取り戻し、人生を楽しみ始めるウォルター。彼の長い長い休暇が終わろうとしている矢先にタレクが逮捕されてしまう。

 不法滞在しているタレクにとって逮捕されるということは国へ強制送還されるということと同じ事。ウォールターが必至になってタレクを救おうと試みている時にトレクの母親モーナが息子を訪ねてニューヨークにやって来る。ここからこの映画は違う展開を見せ始める。ウォルターはタレクが刑務所に入れられている事を彼女に告げる。そしてウォルターとモーナは友にタレクを刑務所から出そうと努力するのだが、モーナとの交流を通してウォルターの心に新たな変化が訪れるのだ。

 ウォルターの人生の再出発を描きながら前半と後半で違う表情を見せるこのトム・マッカーシーの脚本はやはり素晴らしいもの。素性の知れない人を住まわせたり、友情を描く上であまりリアルではない面も見られるのだが、主人公ウォルターの心情に関しては非常に細やかな注意を払って描いている。

 そのウォルターは俳優リチャード・ジェンキンスによって演じられる。『Shall We Dance?』や『キングダム 見えざる敵』に出演している彼の今回の演技は極上。彼はキャラクターの心情を正確に読み取り、非常にリアルな演技を披露している。ウォルターという男は内に秘めるものは大きいのだが、それを表に出せない。そのもどかしさが伝わってくる素晴らしい演技だ。

 ウォルターがニューヨークを「ヴィジット」している間に数人のヴィジターに会い、彼の人生は大きく変化する。そのウォルターを丁寧に演じたリチャード・ジェンキンスに賞賛の拍手を送ると共に、トム・マッカーシーの監督2作目『扉をたたく人』は前作からの期待を裏切らない素晴らしい作品だった事が素直に嬉しい映画だ。

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  • 監督:トム・マッカーシー
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