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ファニーゲーム U.S.A. - 岡本太陽

映画監督ミヒャエル・ハネケが自らの手で『ファニーゲーム』をリメイク!(70点)

© 2007 Celluloid Dreams Productions – Halcyon Pictures – Tartan Films -X Filme International

 観客を冒涜する映画。それはオーストリアの映画監督ミヒャエル・ハネケが1997年に発表した作品『ファニーゲーム』。あまりにもショッキングな暴力描写に人々に衝撃を与え賛否両論を巻き起こした映画だ。映画の上映途中にあまりの内容に退席する人も多数いるこの『ファニーゲーム』をミヒャエル・ハネケは自らの手で新しくリメイクする事に挑戦している。タイトルも『ファニーゲーム U.S.A.』と変わっていない。

 ある夏の午後、夫のジョージ(ティム・ロス)、妻アナ(ナオミ・ワッツ)、息子ジョージー(デヴォン・ギアハート)、そして彼らの愛犬は別荘へ向かっていた。彼らの家へ到着する途中、ヨットの準備を手伝ってもらう為に隣人の家の側を通り過ぎるが、隣人は白い服を着た見知らぬ男2人と一緒だった。ジョージとジョージーが湖でヨットの準備をしている時、夕飯の準備をしているアナのもとにピーター(ブラディ・コーベット)と名乗る青年がやって来る。彼は隣人の家から卵をもらってくるように頼まれたという。しかし奇妙な態度を取り続けるピーターに不愉快な思いをするアナ。卵を渡し、ピーターが去った矢先、すぐにピーターはポール(マイケル・ピット)と名乗るもう1人の男とアナの所に戻る。横柄な態度を取る彼らにアナは限界を感じ、出て行く様に告げる。そこへ夫のジョージと息子のジョージーが帰って来て、アナは夫に彼らに直ぐさま去る様に頼む。そんなジョージを脅すポール。それに頭にきたジョージは彼に平手打ちを喰らわすが、ジョージは逆にポールにゴルフクラブで膝を砕かれるのだった…。

 1997年の『ファニーゲーム』、2001年の『ピアニスト』以降、主演にアカデミー賞女優ジュリエット・ビノシュを起用する等、国際的にも活躍しているミヒャエル・ハネケ。この2008年版『ファニーゲーム U.S.A.』は彼のアメリカ進出第1作目となる。製作総指揮と主演も務めるナオミ・ワッツを迎えた本作は、公開前から期待の1作となっていた。ジョージ役にティム・ロス、ポール役にはマイケル・ピット、ピーター役にはブラディ・コーベットとキャストの個性も豊かな作品だ。

 さて、この 2008年版『ファニーゲーム U.S.A.』は一体どんな映画なのか。オリジナル版を観た事がある人は気付くはずだが、なんと2008年版はそのオリジナルと内容が詳細まで全く同じなのだ。違う所はキャストくらいである。折角最高のキャストと撮影監督にダリウス・コンジを起用しているのだから、オリジナルとは全く違う斬新なシーンがあってもよかったのだが、ハネケはあくまでもオリジナルにこだわっている様子。

 このアメリカ版『ファニーゲーム U.S.A.』はオリジナルと全く同じシーンばかりではあるものの、いくつかのシーンはオリジナルのものよりも優れているのもがあった。特にナオミ・ワッツがマイケル・ピットに手を縛り上げられ、神に祈る様に命令させられるシーンは同じアングルではあるもののオリジナルのものよりも強烈だ。この映画は非常にサディスティックで見るに堪え難いシーンの連続。特に必見なのはナオミ・ワッツがイタぶられるところ。涙と鼻水でグジュグジュになってる彼女は見物である。女優生命を賭けた体を張ったナオミ・ワッツの演技は彼女のファンには「悦」以外何ものでもない。ナオミ・ワッツ、あの金髪でかわいらしい外見のせいか、酷い目に遭う役の似合う女優である。彼女、今度はヒッチコックの『鳥』のリメイクに出演するそうで、またもや酷い目に遭う役を好演しそうだ。

 アメリカ映画において暴力は常に何らかの正義をもって行使されるもの。または多くのアクション映画でもそうだが、暴力はいわば楽しいもの。しかし、その正義という概念がこの映画には微塵も無い。人を憤慨させる暴力のみが描かれている。また、この映画は人の気分を害する。ミヒャエル・ハネケは人を憤慨させる為にこの映画を作ったのだ。そう、これは言わば観客を冒涜する映画なのだ。しかしながらハネケがこのショッキングな映画を暴力が正義だと信じられているアメリカで作った事は、例えこの映画が興行的には失敗したとしても、後にその意味が大きくなる可能性が高い。

 人類が誕生して何万年と経っているにも関わらず、今まで一度と無くなった事のない暴力。その暴力と今一度改めて向き合い、またその暴力というものに否定的な意味も込めたこの『ファニーゲーム U.S.A.』。アメリカ映画市場に殴り込みをかけたミヒャエル・ハネケだが、どうやら現状は、この映画に対するアメリカ人の目は思った以上に冷たい様だ。オリジナルを観た人にとっては内容が全く同じな為、アメリカ版は物足りなさを感じるが、この問題作はミヒャエル・ハネケの傑作の1つである事は間違いない。

岡本太陽

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