『Bowling for Columbine(ボーリング・フォー・コロンバイン)』で一躍日本でも有名になり、2004年のカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した、ブッシュ再選阻止映画『Fahrenheit9/11(華氏911)』の監督マイケル・ムーア。彼の監督する新作『シッコ』を観た。
タイトルの『SiCKO』とは病人という意味で、その言葉から連想される通り、今回の題材は医療関係。特にアメリカにおける医療保険問題を取り上げている。現在アメリカでは5000万人が医療保険に加入していない。世界で最も裕福な国、そして人口約3億人といわれているアメリカでその数はかなり大きい。
この5000万人という数、十分なお金がなくて加入できない人がほとんどだ。そもそもアメリカには国民健康保険の様に国が運営する医療保険が存在しない。よってアメリカに住む者は民間の医療保険に加入するしかないのだ。万が一健康保険に加入しておらず、大怪我をして入院でもしたとする、そうした場合、大金を支払うか、怪我が完治しないまま病院を追い出されるかどちらかなのである。
医療保険に加入している人の場合はどうなのだろうか?保険金をもらう為には様々な条件を満たさなくてはならない。だから病に冒されていたとしても、保険金がおりず、十分な医療処置を受けられずに死に至るというケースも少なくない。そんなアメリカの理不尽な医療保険問題にメスを入れる為に、マイケル・ムーアは人々に医療保険に関する個人のエピソードをEメールで投稿してもらうように募った。1週間経った後のそのEメールの数は数万件。これほどアメリカ人は医療保険に不満を抱いているのだ。
映画の中で、アメリカの医療保険問題を皮肉る様に、他国との対比がなされる。お隣カナダではアメリカに比べて医療費が非常に安い。法を犯してまで、薬品の購入や、治療の為にわざわざ国境を越えてアメリカからカナダに渡る人もいる程だ。そしてフランスに至っては医療保険どころか、救急の患者は医療費自体がタダなのである。そんなフランスはWHOによる世界医療ランキングで1位を獲得している。しかしながら世界1の経済大国アメリカは37位。先進国でこの順位は異常だ。
『ボーリング・フォー・コロンバイン』では銃社会を皮肉り、『華氏911』ではイラク戦争を始めたブッシュ政権を皮肉り、今回の『シッコ』では医療保険問題。前2作品よりも身近な問題であるせいか、マイケル・ムーアのドキュメンタリー映画の中では一番親近感が湧いたというか、共感ができた。病気は誰でもかかるし、怪我もする。だがアメリカの現状では、病気にならないようにする、怪我しないようにすることが一番求められる。それが唯一医療保険問題から回避する方法だ。
この映画はアメリカに住むわたしにとっては人事ではない映画だった。アメリカは経済的に豊かな国である。だがより豊かに暮らす為にはどうすればいいか、マイケル・ムーアはそれを問いかける。彼がこの映画を制作している最中にも、たくさんの人達が医療費が支払えず死んでいった。彼は悲痛な思いを語った。きっと病人という『シッコ』というタイトルに込められている意味は、ブッシュ政権、それからアメリカの歴代政権等、利益のことしか考えず、死にゆく者の事に気付かない者のことを『シッコ』と言っているのだろう。
『戦争をする金があるなら、その金で人を救え。』そう感じずにはいられない映画だった。
(岡本太陽)
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