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米映画批評

FISH TANK

◆18歳にして子持ちのスーパー大型新人女優が誕生した(80点)

 短編映画『WASP』で2004年アカデミー短編映画賞を受賞し、2006年の長編映画初監督作品『RED ROAD』ではカンヌ国際映画祭で審査印象を受賞した、元女優の映画監督アンドレア・アーノルドの長編映画第2作目『FISH TANK』。いわゆるワイドスクリーン型ではなく、正方形に近い枠の中に映し出されるイギリスはエセックス郡の風景の中で行きの詰まる思いをしながら踊る 15歳の主人公ミア。彼女に扮する演技経験ゼロのケイティ・ジャーヴィスが男っ気の全くない家庭に育つ思春期の少女を熱演し、その個性的で、力強く、優れた感覚を備えた体から何かとてつもなく巨大なエネルギーが溢れ出している。

 ミアは低所得者が住む団地にパーティ好きの母ジョアン(キルストン・ウェアリング)と口の悪い妹タイラー(レベッカ・グリフィス)と暮らしている。いつも問題ばかり起こし、学校からも退学させられている彼女が唯一心から打ち込める事の出来るもの、それはヒップホップダンス。団地の中の空きアパートの窓に向かい1人でダンスを練習し汗を流すミア。窓から見えるいつもの景色は小さく、味気ない。

 タイトルの『FISH TANK』とは魚を飼う水槽のこと。水槽の中には外に出る事ができない命がたくさんあるというメタファーをもってそのタイトルは付けられた。エセックスは都会ではないため、広大な土地もある。ところが、カメラに映し出される広いはずの風景でさえも狭く閉鎖的だ。そんな限られた狭い空間の中で生きている本作の登場人物たち。監督は、そこに耐えきれないミアの心情を本作のスクリーンの枠によって感じさせようとしている。

 ミアは彼女の住む世界の居心地の悪さからか、いつも何かに憤っており、彼女の怒りは近所でダンスを練習している女の子グループや遊んでばかりの母親や妹に向けられる。ところが、彼女があるフェンスに囲まれた空き地で鎖に繋がれた白い馬を見つけると、その態度は穏やかになり、まるで一言一言語りかけるかの様に、慎重に優しくその馬を撫で、それを逃がそうと試みる。ミアは独ぼっちで寂しそうに空き地に捕われている美しいものに自分を重ねる。

 ミアの生活に劇的な変化が訪れるのはコナー(マイケル・ファスベンダー)という母親がある日アパートに連れて来てから居候し始める男の出現から。女所帯にいきなり男の香りがし始め、家庭の中にさらに居心地の悪さが増すが、ミアは徐々にその大人の男性に興味を持ち始める。娘に無関心な母親と違い、気さくで優しく、車で家族を釣りにも連れて行ってくれる彼を、ミアは徐々に現在の生活から救ってくれる人として見始めるが…。

 『ハンガー』『イングロリアス・バスターズ』で注目されたマイケル・ファスベンダー扮するミアの前に突然現れた母親のボーイフレンド・コナー。ミアにとっては年上の頼れる友達の様でもあり、なんとなく父親の様でもある彼は全てが完璧そうに見える。ところが、彼は彼なりの日常が嫌で逃げ出して来た身のはず。完璧そうな彼のバックグラウンドには絶対に何かしらの闇があり、決して悪い奴ではないが、問題に向き合わず逃げている男という事を念頭に入れて彼の行動を見ると、主人公だけではなくコナーのキャラクターもより興味深く映る。

 『RED ROAD』ではアンドレア・アーノルドは、ミステリー調の雰囲気の中、物語の展開が進むと同時に、1人の女性の心理の変化を見事に表現してみせた。今回の『FISH TANK』では、問題ばかり起こす思春期の少女の日常を淡々と描いく中で、彼女の心を揺り動かす出来事が起こり、それから得た経験により主人公が大人に1歩近づくという通過儀礼的展開が、物語に普遍的な要素を持たせている。そういう意味では米アカデミー作品賞にもノミネートされている『17歳の肖像』にも似たテーマを『FISH TANK』にも感じられるだろう。

 父親のいない主人公ミアにとっては、いくら母親が鬱陶しくとも彼女から受けている影響は非常に大きいはず。ダンスに関しても、小さい頃から飲んで踊る事が好きな母を見てきたから好きになったに違いないが、ミアはその事にはまだ気付いていない。ところが物語のラストは女家族3人の強い繋がりを感じさせる意外なものだった。伝えられない気持ちをダンスを通して伝え合う女たち。ミアはいつの日か母親や彼女自身のありのままを受け入れる事が出来るのだろう。

 主演のケイティ・ジャーヴィスはボイフレンドと電車の駅で線路を挟んでの口論中に本作のキャスティングエージェントにより偶然に発見された。彼女はほんとうにエセックスに住む女の子、また本作には脚本がほとんどなく、俳優たちのリアルに近い会話や表情を捉えているゆえ、特に演技経験のない彼女の話し方や振る舞いはきっとミアというよりはジャーヴィス自身のもの。この才能はまさにダイヤモンドの原石だ。

岡本太陽氏 高得点批評

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