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米映画批評

17歳の肖像

◆16歳の少女と大人の男性の甘くてほろ苦くてちょっと危険な恋愛模様(75点)

 16歳。人生の中の最も多感なとき。そしてあの頃の未来は明る過ぎた。またそれは、それだけ世間知らずでもあったという事。イギリスのザ・オブザーバー紙で知られるジャーナリスト、リン・バーバーの自伝の一部を映画化したロネ・シェルフィグ(『幸せになるためのイタリア語講座』)監督最新作『17歳の肖像』の主人公ジェニーは文化の発達していない60年代初頭のイギリスに退屈し、フランスに憧れる女子高生。しかし、平凡だった彼女のティーンライフは、ある年上の男の出現により、ロマンチックで刺激的なものへと劇的に変化してゆく。

 1961年、ロンドン郊外のトウィッケンハム。そこにフレンチポップを愛聴する16歳の美人で成績優秀なジェニー・ミラー(キャリー・マリガン)は父母(アルフレッド・モリーナ&カーラ・シーモア)と暮らしていた。チェロを弾く彼女は学校でオーケストラのリハーサルを終えたある雨の午後、雨宿りをしていると、デヴィッド(ピーター・サースガード)と名乗る三十代の男が「チェロが濡れてしまうから、車に乗らないか?」と気さくに声を掛けてきた。すぐさま彼に興味を抱いてしまうジェニー。デヴィッドと交流を持ち始めた彼女は煙草やシャンペンをはじめ、コンサートやジャズクラブ等、大人の世界を体験してゆく。

 好奇心旺盛な16歳の小娘にとって、デヴィッドはスリルそのもの。彼には抵抗出来ない眩しさがあった。だから彼女はそんな格好良い彼と会っている事を親にも隠さない、友達はもちろん、学校の先生にまでも。彼と付き合う事で優越感を覚えたし、自分と同じ年頃の男子はもう「男の子」にしか見えなくなっていた。

 デヴィッドは紳士的で、知的で、ジェニーがかじり始めたフランス語も流暢。ジェニーの親は娘の年上の彼に初めは緊張するが、彼の素敵な態度にすぐに気を許してしまう。だから娘が彼とパリ(外国)に旅行に行くのだって躊躇はするものの、結局OKを出してしまう。それに体目的ではない大人の余裕がデヴィッドにはあった。2人きりの親密な状況になっても、「わたしはまだ処女で17歳まで待ちたい」とジェニーが言うと、「そうだね」と返すその余裕。完璧な男。

 これがもし、16歳の男が主人公の物語だと、童貞喪失が物語の中心になるはず、しかし本作のタイトル「エデュケーション」は性教育を指さない。何をもって本作は「エデュケーション」というのか。ジェニーは私立校の優等生で、親にも先生にも期待されている女の子。しかし、デヴィッドに夢中になり過ぎるあまり、徐々に勉強が彼女にとって重要な事だと思えなくなってしまう。そして青春の全てが彼になってしまったジェニーはとうとう学校まで辞めてしまう。ところが、そんな彼女に予期せぬ展開が。

 誰にでも大人になる段階で、子供時代と決別しなくてはいけない瞬間が訪れる。ジェニーにはそれが高校時代に訪れただけの事。デヴィッドとずっと一緒だったら勉強だってせずに幸せに暮らせるはずだった、、、、、生き急いだ少女は、彼女自身の行動を省みた後に、まさに教科書は教えてくれない事を経験を通して学ぶ(それはロックな経験とも言う)。そしてこれこそタイトルの意味する事なのだ。

 主人公扮するキャリー・マリガンは思春期の女の子の世間知らずさと柔軟さを見事に体現し、誰もが共感出来るジェニー像を作り上げた。彼女には溢れんばかりの主演女優としての存在感を感じる事が出来、本年度の映画賞レースへ名を連ねる可能性の高さも伺えるだろう。イギリス映画界ではキーラ・ナイトレイ以来の逸材かもしれない。また彼女は本作のチャームポイントで、彼女が本作を特別な作品にしていると言っても過言ではないはず。

 人々の様子や服装や町の雰囲気全てがザ・ビートルズ出現前の状態に正確に再現された本作で、純粋であるがゆえに犯してしまう過ちというデリケートな素材を『ハイ・フィデリティ』『アバウト・ア・ボーイ』の原作者であり映画監督のニック・ホーンビィが丁寧にあしらい、物語をユーモアたっぷりに描く。人生におけるチャレンジは人それぞれ多少違うものだが、それの与える影響は誰にとても似た様なもの。だから彼女はきっとあなたで、わたしなのかもしれない。フレンチポップをフランスに夢馳せて聴いていたジェニー。あの経験以降、そのサウンドはほろ苦く感慨深いものになったに違いない。

岡本太陽氏 高得点批評

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