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米映画批評

アンヴィル!夢を諦めきれない男たち

◆この映画はまるで『スパイナル・タップ』×『レスラー』だ(85点)

アンヴィル!夢を諦めきれない男たち

© Ross Halfin /ANVIL! THE STORY OF ANVIL

 1984年に公開された架空バンドの全米ツアーの模様を追う映画『スパイナル・タップ』。『スタンド・バイ・ミー』で知られるロブ・ライナーが監督を務めた「ロキュメンタリー」と称すこのモキュメンタリー作品は今もなおカルト的人気を誇っている。2009年、まるで『スパイナル・タップ』を観ているかの様な感覚に陥ってしまう正真正銘のドキュメンタリー映画が全米で公開された。『アンヴィル!夢を諦めきれない男たち(原題:ANVIL! THE STORY OF ANVIL)』。そう、あのバンド、アンヴィルのドキュメンタリー映画だ。

 アンヴィルは80年代に一世を風靡したボン・ジョヴィ、ホワイトスネイク等を始めとするヘヴィメタルバンドの中の1つ。1973年、カナダのトロントで高校時代の友人であったボーカル&ギターのスティーヴ・"リップス"・クドロウとドラムのロブ・ライナー(映画監督のロブ・ライナーとは違い、彼のロブはROBBとBが2つある)によってバンドは結成された。1982年には他のヘヴィメタルバンドに多大な影響を与えたアルバム「Metal On Metal」をリリースし、人気を獲得。しかし、不運にも他のメタルバンドが名声を掴む中、アンヴィルだけはその存在を葬り去られてしまう。

 スティーヴン・スピルバーグ監督映画『ターミナル』の脚本家として知られる本作の監督のサーシャ・ガバシがアンヴィルに初めて出会ったのは1982年の9月、彼らがロンドンでライブを行ったとき。まさにアンヴィル絶好調の時代だ。イギリスNo.1アンヴィルファンを豪語していたガバシはその後85年のツアーまで彼らに同行した。そしてそれから20年も後の2005年11月、彼はアンヴィルのドキュメンタリー映画を撮り始める。

 本作はおそらくアンヴィルの絶好調だった頃の日本公演の様子で幕を開ける。それが夢の出来事であったかの様な気持ちにさせられるオープニングだ。メタリカのラーズ・ウルリッヒやGUNS N’ ROSESのスラッシュ等がどれだけアンヴィルの出現が衝撃的だったかを語った後、わたしたちはアンヴィルをトロントに見つける。なんと彼らはまだバンド活動を続けていたのだ。

 互いに家族を持つリップスとロブ・ライナー。彼らは家族を養う為にしがない仕事をしながら地元のファンに支えられギグを行っている。そんな彼らに突然朗報が舞い込む。それはヨーロッパツアー。再び表舞台に返り咲く最後のチャンスかもしれない、リップスとライナーはそう思う。ところが親身だが全く役に立たない女性マネージャーのせいでツアーは混沌と化してしまう。いつも情熱に身を任せてきたアンヴィル。しかし、計算高くなく、その燃えたぎる情熱とフットワークの軽さが逆に災いして伝説的バンドにはなり得なかったのではないか、彼らを見ているとそんな気がしてくる。

 また、13枚目のオリジナルアルバムをリリースするためにレコード会社に直々に売り込みを行う彼ら。しかし、制作途中にある事件が発生する。日々の仕事もこなし、家族も大事にし、ライブも行い、アルバムも制作する。「今しかない!」という思いでいつも突っ走って、頑張っている彼らの努力が実らないのは非常に残念な思いにさせられてしまう。だが、それでも周りは彼らを見捨てない。なぜなら彼らは2人の中年男の才能や汗や涙を知っているから。わたしたちは夢を諦めないピュアなその男たちの存在を知ると共に、この2人のアーティストは素晴らしい人々に支えられているのだという事を悟る。

 報われないバンド、アンヴィル。一体彼らの願いを誰が聞いてくれるのか? 可笑しくて人間臭い、この心に触れる物語の最後には涙なしでは観られないエンディングが待ち受けている。ストーリー展開は『スパイナル・タップ』と酷似しているが、本作の雰囲気は今年の賞レースを沸かせた感動作『レスラー』。アンヴィルは見事俳優として復活を遂げたミッキー・ロークに続くか。『アンヴィル!夢を諦めきれない男たち』は人の魂の温かさに満ち溢れている。

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岡本太陽氏 高得点批評

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