映画『ホテル・ルワンダ』のテリー・ジョージ監督最新作（50点）
2004年にアメリカで公開された『ホテル・ルワンダ』という映画がある。ドン・チードル主演のこの映画はルワンダで実際に起きた民族大虐殺事件を描いていた。忘れてはいけないこの悲劇は観るものに大きな衝撃を与えた。わたしもこの映画を観た時にホラー映画以上の恐怖を味わった。
その『ホテル・ルワンダ』を撮ったテリー・ジョージという監督がいる。彼はダニエル・デイ・ルイス主演の『父の祈りを』と『ホテル・ルワンダ』で2度アカデミー脚本賞にノミネートされている。その彼が『ホテル・ルワンダ』の次に選んだのはジョナサン・バーナム・シュワルツ原作の『RESERVATION ROAD（夜に沈む道）』である。この映画は前作とは打って変わってアメリカが舞台のドラマである。
この作品は2つの家族の2人の父親達の物語だ。ある秋の夜、大学教授のイーサン・ラーナーは妻と娘と、10歳の息子ジョッシュがチェロを演奏する野外コンサートに来ていた。そのコンサートの後、車で帰宅途中に彼らはあるガソリンスタンドに立寄る。同じ日、弁護士のドワイト・アルノーは息子ルーカスとレッドソックスの試合を観に野球観戦に来ていた。その試合途中でドワイトの前妻ルースから電話でルーカスを帰宅させる様に催促が来た。彼らはその後、車で帰宅するのだが、途中にあるガソリンスタンド付近で少年を轢き逃げしてしまう…。
大学教授イーサン・ラーナー役にはホアキン・フェニックスが扮する。数週間前に公開された『アンダーカヴァー』というポリスアクションドラマに出演した彼は、今回は息子を轢き逃げされ、怒りそして復讐と向き合う父を演じる。そしてイーサンの妻グレースをジェニファー・コネリーが演じる。『ビューティフル・マインド』で2001年度アカデミー助演女優賞を受賞し、その後も『砂と霧の家』『リトル・チルドレン』等話題作に出演中である。それからラーナー家の娘エマにはダコタ・ファニングの妹エル・ファニングが扮する。
もう1つの家族の父ドワイト・アルノーに扮するのはマーク・ラファロ。2000年公開の『You Can Count On Me』の演技で注目された彼は、それ以降『死ぬまでにしたい10のこと』『エターナル・サンシャイン』『ゾディアック』等の助演で印象的な役を演じている。今回は自分の犯した過ちに翻弄される役だ。また彼の妻には『誘惑のアフロディーテ』で娼婦を演じアカデミー助演女優賞を受賞したミラ・ソルヴィーノが扮する。彼女が1995年度のアカデミー賞を受賞した後は話題作によく出演していたが、最近彼女の名前を聞く事はなかったので、なんとなく懐かしい気持ちになった。
復讐に燃える父の映画は他にもあるが、『帰らない日々』では加害者側、被害者側の両面から描いている点が良かった。今年の夏公開の『狼の死刑宣告』は息子を殺された父が犯人に復讐するという被害者側を中心に描いた作品だった。出来はどうしようもないものだったが。
この物語の発端は轢き逃げという悲惨な出来事だったのだが、「恐怖」という観念が物語の根底にある。少年を車で轢いてしまったことで、恐怖を感じ、轢き逃げに至ったドワイト。その彼は轢き逃げについて「怖かった」と言っていた。恐怖は犯した罪を正当化する。彼は罪がバレない様に車を隠したりするのだが、私たちは犯罪者の彼をどういう訳か、弱者と判断し、同情の目で見てしまう。怒りと疑いで心が乱されるイーサンよりも轢き逃げしたドワイトに同情してしまうのである。
『帰らない日々』は雰囲気的にはクリント・イーストウッド作品の『ミスティック・リバー』に似ているだろうか。しかしながら『帰らない日々』は『ミスティック・リバー』のずっしりと心に残る感動に比べ、圧倒的にチープである。わたしは単なるメロドラマを観せられた気がした。演技派の役者をずらりと揃え、『ホテル・ルワンダ』のテリー・ジョージが監督した映画ということで期待していたが、かなり期待はずれだった。マーク・ラファロ演じるドワイトの息子ルーカスを演じるエディー・アルダーソンはどうやら映画初出演らしいが、陳腐なストーリーのこの映画『帰らない日々』の中で、わたしには彼が1番印象的だった。
（岡本太陽）
