reprise - 岡本太陽

ヨアヒム・トリアーが描くノルウェー発現代版ヌーベルバーグの傑作。(85点)

 今年のサンダンス映画祭で注目を浴びたある映画監督がいる。コペンハーゲン生まれでノルウェーを拠点に映画制作をしているヨアヒム・トリアー。彼の両親は共に映像関係の仕事に就いており、彼が映画界に身を投じるのはごく自然な事だった。また彼のファミリーネームから連想される通り、ヨアヒム・トリアーは『ダンサー・イン・ザ・ダーク』などで知られるデンマーク出身の映画監督ラース・フォン・トリアーの遠い親戚だそうだ。その彼が監督した『reprise』という映画が現在注目を浴びている。この映画は2006年アカデミー賞の外国語映画賞のノルウェー代表作品で、その後多くの映画祭等で上映され、今年のサンダンス映画祭でその映画の評判はクライマックスを迎え、アメリカで公開されるに至った。

 オスロに住む23歳のエリクとフィリップは作家として成功する事を夢見ていた。ある日、それぞれ書き上げた原稿を一緒にポストに投稿する2人だが、エリクの原稿は受け入れられず、フィリップ1人だけが一夜にしてスター作家の道を歩み始めた。その後フィリップはカリという女の子に会い、2人は恋に落ちるが、6ヶ月後フィリップは精神病院にいた。エリクと彼の友人たちは長い間精神病院で治療を続けていたフィリップを車で迎えに行く。1度は名声を手にしたフィリップ。友人の励ましを得るものの彼はもう書く事が出来なくなっていた。しかし1度失敗したエリクは諦めずに小説を書き続けていた。若いエリクとフィリップは愛、友情、混乱、悲しみ、そして創造に翻弄される…。

 このヨアヒム・トリアーの『reprise』はフランスのヌーベルバーグシネマにオマージュを捧げた作品で、特にフランソワ・トリュフォーやジャン=リュック・ゴダールの影響を受けてる事が伺える。その通り、『reprise』の登場人物エリク、フィリップ、そしてカリはパリで時間を過ごすシーンが用意されている。エリクは執筆のために、フィリップとカリは2人の素晴らしい日々を思い出すために。ヨアヒム・トリアーは1974年の若い映画監督、60年代を知らない彼の作り上げる現代版ヌーベルバーグはどこかノスタルジックな雰囲気すら漂うものの、やはり新鮮でとても新しい空気の様な映画だ。

 この作品はヨアヒム・トリアーと友人のエスキル・ヴォートの2人で共同執筆された。2人ともライターで、彼らは書く事=自身のアイデンティティという考えを持っており、トリアーとヴォートはこの作品をある1つの疑問に基づいて書いた。その疑問とは「もし2人のうち1人がもう書きたくなくなったらどうするか?」というものだ。アート映画としてノルウェイから映画を発信するのは彼ら2人にとって非常に困難だったのだが、『reprise』は殺伐とした映像の中にたくさんのユーモアのある遊び心満載の映画に仕上がっている。また音楽もこの映画では非常に重要で、ジョイ・ディヴィジョン等のアングラなロックのサウンドトラックもこの映画を”ニュー・ヌーベルバーグ”として成立させていると言える。

 現在、アメリカのヌーベルバーグ映画監督の代表はおそらく『イカとクジラ』のノア・バームバックだが、このヨアヒム・トリアーはバームバック氏の結末等の曖昧な描き方をさらに上回る曖昧さだ。ハリウッド映画では必ず原因と結果が描かれるが、ヨアヒム・トリアーは結果は描いても原因は詳しく語らない。『reprise』において気になるのはどうしてフィリップが精神病院に入らなくてはならなかったのかだが、それもあまり詳しくは説明されない。なんとなく彼が書けなくなった理由を恋人のカリとの関係を見ながらわたしたち自身で推理するしかない。ただ重要な事は描かれていないのではなく、露にされていないだけだ。その計算された芸術性に品すら感じる。曖昧さがわたしたちの思考を刺激し、文化的に高い見地からこの映画を観る事が出来るだろう。

 トリュフォーやゴダールに代表されるヌーベルバーグ作品。『reprise』はヌーベルバーグ好きも納得してしまう作りになっており、過去から学んだ良い例だ。今ではヌーベルバーグはもう古臭いと世間では思われているかもしれないが、ヨアヒム・トリアーは若者達の希望と絶望の入り乱れる素晴らしい映画を作り上げ、ノルウェー発の”ニュー・ヌーベルバーグ”を提示した。ノルウェーは文化的にはまだまだ新しい国。しかしその国からヨアヒム・トリアーという大きな可能性を秘めた才能が誕生した。これから今まで映画界ではあまり表立たされなかったノルウェーから、どんどんクリエイティブな作家が生まれそうな予感がする。

岡本太陽

【おすすめサイト】 
Warning: file(): php_network_getaddresses: getaddrinfo failed: node name or service name not known in /export/sd09/www/jp/r/e/gmoserver/6/1/sd0158461/cinemaonline.jp/wp-content/themes/blog/sidebar.php on line 80

Warning: file(http://www.beetle-ly.net/linkservice/full_nor/group73): failed to open stream: php_network_getaddresses: getaddrinfo failed: node name or service name not known in /export/sd09/www/jp/r/e/gmoserver/6/1/sd0158461/cinemaonline.jp/wp-content/themes/blog/sidebar.php on line 80

Warning: shuffle() expects parameter 1 to be array, boolean given in /export/sd09/www/jp/r/e/gmoserver/6/1/sd0158461/cinemaonline.jp/wp-content/themes/blog/sidebar.php on line 82

Warning: Invalid argument supplied for foreach() in /export/sd09/www/jp/r/e/gmoserver/6/1/sd0158461/cinemaonline.jp/wp-content/themes/blog/sidebar.php on line 83

 

File not found.