前作よりはるかに面白く、そして怖い(85点)
自分がみたままを映像にする、いわゆる主観撮影という技法が流行している。中でも『REC/レック』は本国スペインで記録的大ヒット、成功例といえるだろう。早々にハリウッドに買われたリメイク権は、誰も気づかぬままいつのまにかビデオスルー作品となっていたが、オリジナルの続編である『REC/レック2』は、無事日本でも劇場公開が決定した。
前作のラストシーン直後。現場のアパートにSWATが到着した。ヘルメットに記録用CCDカメラを装着した彼らは、感染病の専門家(ジョナサン・メイヨール)のガイドにより、建物に突入した。博士は真っ先に最上階のチェックを指示するが、暗闇では凶暴化した住民たちが牙をむいて待ち受けていた。
前作も相当恐ろしいガチンコ恐怖映画だったが、今作はさらにパワーアップ。なにしろ、映画の前半部分丸ごとぐたぐだしていた前作と違い、今回はのっけからお化けアパートに突入。ラストまでサバイバルを繰り広げるのだ。気を抜いていられるのはせいぜいオープニングから3分ほどだろう。
しかも、その恐怖密度は前作にひけをとらないどころか、さらに濃密になっている始末。「こわがりたい」というマゾなあなたも、「彼女(彼氏)をこわがらせたい」というサディストなあなたも、ともに満足できるハイレベルだ。
それにしても、同じアパートで、同じ時間帯(なにしろ前作の終了直後の話だ)、同じ設定と撮影方法で続編をつくろうなどとよく思いついたものだ。どう考えたって、これでは二匹目のどじょう狙い。安直焼き直し脚本とリサイクルセットのお手軽低予算続編になることは確実ではないか。
ところが、である。
『REC/レック2』はいきなり仰天の新アイデアで私たちを驚かせる。なんと、警察特殊部隊の隊員らの頭に小型カメラをつけるという設定によって、「主観映像なのに多アングル」という、画期的なことをしでかしたのである。
カメラが複数台あれば画面に変化をつけやすいし、小型カメラなら画角の狭さにも説得力が生まれる。これについて少し説明すると、画角が狭いということは視野が狭いと同義で、それだけ死角が増えるということ。頭部装着用の簡易的な小型CCDカメラだからこそ、狭い画角も不自然にならないという意味だ。狭いアパート内で、視界まで狭まる。これで観客の恐怖は倍増する。通常のビデオカメラの広角レンズだったら、左右けっこうな範囲まで見えてしまうからこうはいかない。
画角が狭いと、ゆっくりカメラが横移動していくと唐突に至近距離の化け物が視界にはいってくる。カメラの動きはのろいのに、それは本当にいきなり現れた印象で、ショッキングこの上ない。こういう演出をするための設定でもあったわけで、まさに一石二鳥。
主観映像映画最大の弱点である「単調な映像」「手ぶれ」も、様々な工夫でカバーする。鏡をつかったり、暗視映像を使ったり、はたまたビデオカメラが出てきたり。しかも、カット(省略)の仕方が絶妙で、テンポを絶対に緩ませない。高度な計算と、大量のアイデアを凝縮したことがよくわかる、手の込んだ作品だ。
ラストも、衝撃的な上に「これはうまい」とうならせるもので大満足。なによりこれを見て感心したのは、この映画を作った人たちは単に奇をてらうためだけに、流行の主観映像映画を作ったのではないということ。彼らはある目的のために一番効果があるから、あえてこの撮影技法を採用したことが、今回はっきりとわかった。つまり彼らは、目的でなく手段として、この面倒くさい方法を行ったのだ。
その理由はつまるところ、今の時代ではもはやギャグ、コメディとしてしか成立しにくいオカルトゾンビものを、いかにリアル恐怖ものとして作り上げるか、ということである(それも超低予算で)。そのために、この手法(主観撮影)がきわめて有効であることを、スタッフは証明してみせた。
その意味で、『REC』シリーズは画期的な映画史的前進であり、ホラーファンなら必ず見ておかねばならない道標的価値のある作品となった。
それにしてもSWATの皆さん、なにもこんな真っ暗なときに突入しなくても、明るくなってから入ればいいじゃん……と突っ込みたくなる人はたくさんいるであろう。こんなおっかない物件に入るにしては、人数も少なすぎる。どう考えても勝てる気がしない。だから、よけいに怖い。
(前田有一)