ただいま流行中の「○○現場に偶然居合わせた人の衝撃映像」もの(75点)
P.O.V.リアルパニック・ムービーと銘打たれたこの映画。この耳慣れない宣伝文句はしかし、今後何度も使われるかもしれない。というのも現実にいま、P.O.V.なる手法は映画作りをする人々の間では無視できないブームなのだ。
ローカルTV局の女性レポーター(マニュエラ・ヴェラスコ)は、消防士の一日を追うドキュメンタリー番組のロケで消防署に来ている。実際には何の動きもなく、ちっとも面白い画が取れぬまま夜が更けていく。イラ立ちがつのるころ、緊急出動のサイレンが鳴りひびく。あるアパートで、なにやら騒ぎが起こったというのだ。
P.O.V.(Point of View)とはなんぞや。これは日本語で言う主観撮影というもので、簡単に言えば公開中の「クローバーフィールド/HAKAISHA」がそれにあたる。ようは登場人物の目線で撮影された作品のことだが、これまではその特殊な映像をどう設定するかがひとつのカギであった。
クローバーフィールドや「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」(99年)では、「何かが起きた現場で回収されたビデオテープ」という触れ込みになっていたのはご存知のとおり。今のところこれが定番となっている。
主観撮影の一番の難点はこの理由付けの部分だったが、ビデオカメラが普及し、誰でも扱える時代になった事でようやく「クローバーフィールド/HAKAISHA」のような映画が作れるようになった。確かに2008年の今なら、何か事件があったとき、都合よくその場にいた素人がケータイ動画やビデオカメラを回していても違和感はない。
そんなわけで今ハリウッドでは、堰を切ったようにP.O.V.映画がたくさん企画されている。そんな今後の映画界の流れを知っておくためにも、すぐにリメイク権を買われたスペインの話題作を見ておいて損はない。
『REC/レック』は、「現場」に偶然居合わせたのがテレビ局のスタッフ=プロカメラマンだったおかげで、観客は他の類似作品と違って手ぶれに酔う事なく臨場感を味わえる。ちなみに撮影にクレジットされているパブロ・ロッソという人物はプロの映画カメラマンだが、実際その名前でカメラマン役として本作に出演している。その他の登場人物も無名の役者で固められているが、これは「あくまでリアルに見えるようこだわった」監督による演出である。
さて、この小さなアパートでいったい何がおきるのか。正直なところ、一軒の建物内だけで80分間もこちらを怖がらせるアイデアなどあるのかと訝しく思っていたが、それは杞憂だった。超低予算ながらあの手この手の工夫で、決して観客を安全地帯に逃がさない。心臓の弱い人は、きっと途中で劇場を出たくなるだろう。
現場にやってきた警官に、「なんだキミたちは、カメラなんて止めなさい」といわれた時の女性キャスターの反応が面白い。毛を逆立てた猫のように猛烈に警官にかみつき、堂々と撮影を続行する。その剣幕のおっかないことといったらない。とはいえ、おかげ様で私たちもその後の「おそろしい事件」のすべてを見ることができる。思わず苦笑してしまう一場面であった。
(前田有一)