◆劇中で描かれる恐怖、緊迫を観る者がリアルに体験できる(70点)
2000年にコロンビアで起こった“ネックレス爆弾事件”をモチーフにしたサスペンス・スリラー作品。世界中が注目している新鋭スピロス・スタソロプロスが監督、脚本、撮影の三役をこなし、長編デビューを飾った。
舞台はコロンビアのクンディナマルカ県郊外。四男一女の武装犯行グループが農園と養鶏場を経営し、平穏な生活を送っているバルデス一家を襲撃。犯行グループは家族全員を拘束し、銃で脅しながら1500万ペソという大金を要求する。一家の長であるシモンとその妻オフェリアは金がないことを強く訴えかけるが、犯人たちは聞く耳を持たず、オフェリアの首にコルセット型の時限爆弾を装着して姿を消してしまう。
本作の最大の特徴は、たったの1カットだけで撮影されたということだ。85分の上映時間に一度もカットが入らず、まるまる長回しで撮られていることに驚愕させられる。こうしたことによって劇中で描かれる恐怖、緊迫を観る者がリアルに体験できるのである。
その上にBGMや効果音も一切使用されず、静寂なタッチで描かれる。時折、コルセット型時限爆弾から鳴り響く不気味な金属音が観る者をふと驚かせる唯一の効果音であり、劇中ではオフェリアを脅かして精神面を徹底的に追い詰める。
見所は、簡単にはずすことができない爆弾を国家警察のハイロ中尉が解体するシーンであり、中盤以降はこのシーンに重点が置かれている。現場には十分な解体道具等が一切なく、たった一本のナイフをロウソクの火であぶって爆弾に切り込む。本作の売りモノである緊迫感が遺憾なく発揮されたシーンは、観る者に「解体が成功するか否か」を気掛かりにさせ、釘付けにさせる。
衝撃が待ち受けるラストシーンは、コロンビアがいかに恐ろしくて治安が悪い国であることを物語っていると捉えることができる。
コロンビア映画そのものが珍しいが、作品そのものもかなりの珍品だ。それにしても85分を1カット撮りというのは、かなり大変だったことだろう。少しのミスによってすべて一からのやり直しになるというリスクを背負いながらもしっかりと成功させたスタソロプロス監督の労をねぎらいたい。
(佐々木貴之)