PUSH 光と闇の能力者 - 小梶勝男

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 超能力者を扱った映画は、ジョン・トラボルタの「フェノミナン」(1996)のような例外はあるものの、「X-メン」シリーズや「ジャンパー」(2008)のようなアクション映画か、「キャリー」(1976)「フューリー」(1978)「スキャナーズ」(1981)のようなホラーか、どちらかになるのが普通だろう。超能力者はヒーローかモンスター。いずれにしても人間ではない部分が強調されるのである。

 本作が面白いのは、超能力者たちを描きながら、アクションでもホラーでもなく、一種のクライム・ミステリーになっていることだ。もちろん超能力合戦も描かれていて、それも見所なのだが、最も興味深い部分は、超能力を使って相手を欺きあう知恵比べにある。超能力はあくまで一つの「手段」に過ぎず、人間たちの騙し合いに焦点が絞られている。

 超能力者を使って様々な陰謀を企む謎の政府組織ディビジョン。その手を逃れて香港で暮らすニック・ガント(クリス・エヴァンス)は「ムーバー」と呼ばれ、念力で物を動かすことが出来る。ある日、未来を見ることが出来る「ウォッチャー」のキャシー・ホームズ(ダコタ・ファニング)が訪れ、600万ドルを入れたケースと、それを持つ女(カミーラ・ベル)を捜して欲しいと言われる。女は他人にウソの記憶を植え付けて心を操る「プッシャー」だった。ニックとキャシーは他の超能力者とも協力しつつ、ディビジョンからケースと女を守ろうとする。

 いかに自分たちの超能力を使って、ディビジョン側の超能力者の手を逃れるか。その様々な工夫がサスペンスにつながっている。他人の記憶を書き換えるなど、映像としては表現しにくい複雑な超能力も、ストーリーの中で巧みに使われている。ネタバレになってしまうので書けないのだが、あっと驚く展開だった。

 舞台となった香港の街並みがいい。ゴミゴミした街の臭いまで感じられるような映像は、ゲリラ的に撮影されたという。「超能力もの」としては、超能力合戦の表現はやや地味だが、見せ場はちゃんと作られている。

 そして何よりも、今年(2009年)で15歳のダコタ・ファニングが見ものだ。天使のようなあどけない表情はもはやなく、可愛いというより、綺麗になった。子役のファニングを見続けてきただけに、大人っぽい険しい顔つきなどを見せられると、ああ、大人になってしまうんだなあと思う。寂しいと同時に、15歳という微妙な年齢の魅力も十分に感じた。

 「謎の政府組織」という設定にリアリティがないのと、話が途中、分かりにくくなってしまうのが難点だが、知恵比べの面白さとダコタ・ファニングの魅力で楽しめる作品だった。

小梶勝男

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