PUSH 光と闇の能力者 - 町田敦夫

◆B級ながらポール・マクギガン印は歴然(70点)

 政府機関に養成された超能力者が善と悪に分かれて対決・・・と言ってしまえば、いかにもベタなB級映画に聞こえるが、そこは『ホワイト・ライズ』『ラッキーナンバー7』などの洒落た作品を作ってきたポール・マクギガン監督。魔界のような香港を舞台に、彼らしいシャープな一作に仕上げている。

 念動力者のニック(クリス・エヴァンス)は、「ディビジョン」と呼ばれる政府組織から逃れ、香港に隠れ住んでいた。そこに予知能力者のキャシー(ダコタ・ファニング)が現れ、「ディビジョンからある物を持ち逃げした女を探さないと、自分たちは2人とも死ぬことになる」と告げる。敵の超能力者に命を狙われながら捜索を始めたニックは、問題の女が元恋人のキラ(カミーラ・ベル)だったことを知り……。

 ムーブ(念動力)やウォッチ(予知能力)といった定番だけではなく、目新しい超能力が次々と登場するのが本作の見どころ。持ち物の臭いから所有者の過去と現在を読み取る「スニフ」や、近くにある人や物の存在を覆い隠す「シャドウ」も面白いが、何と言っても興味深いのは、他人の脳に偽りの記憶を押しこむ「プッシュ」だろう(タイトルの『PUSH』はここから来ている)。キラがその能力を駆使して、敵やアカの他人を手玉に取っていくシチュエーションは、ユーモアとオリジナリティ抜群だ。

 男女の機微を小粋に描くマクギガン演出は、本作でも健在。勝ち気なキラは、「バスルームに来てキスしてよ」なんて物欲しげなことは口にせず、代わりにニックの頭に「バスルームが火事だ」という考えをプッシュする。事情を察したニックが「観客サービスはここまでよ」とばかりに念動力で扉を閉めるのにも、思わずニヤリとさせられた。登場する女性キャラたちがそろいもそろって美しく、ちょっとハスッパなのは、監督の好みを少なからず反映しているのだろう。

 緻密に計算された大がかりなアクションは見応え十分。ムーブの使い手同士の超能力バトルは、VFX満載で壮絶だ。様々な特殊能力を巧みにプロットに取りこんだデヴィッド・ボーラの脚本も上々。ディビジョンのリーダー(ジャイモン・フンスー)とキラが共にプッシュを使うだけに、観客はどの登場人物の記憶を信じたらいいのかわからなくなり、キラの正体が明かされるどんでん返しまで何度も翻弄され続ける。キャストは少々地味ながら、観ても決して損はない作品だと、私も“プッシュ”しておこう。

町田敦夫

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