少しくすんだようなカラーは主人公の心象風景を象徴しているかのよう。雑多な混沌という限られた選択肢の中で生きていかなければならない男の、絶望するには早すぎるが希望を持つほど甘くない現状を、カメラは冷徹に見つめる。(40点)
少しくすんだカラーは主人公の心象風景を象徴しているかのよう。日系ブラジル人でありながら華僑に育てられ、サンパウロのアジア人街の若手リーダー的存在。多種多様な人種が入り交じる街で民族のアイデンティティを持たず、この雑多な混沌が故郷で、他に行くあてもない。当然まともな職業には就けず、同じ境遇の人々をまとめて闇商売に手を染めている。限られた選択肢の中で生きていかなければならない男の、絶望するには早すぎるが希望を持つほど甘くない現状を、カメラは冷徹な視線で見つめる。
幼い時にジャングルで両親を殺されたキリンはユダという男に育てられ、今ではユダのコピービジネスを任されている。ある日警察の一斉捜査でユダが逮捕され、その間にユダが経営するショッピングモールに台湾人が食指を伸ばしはじめる。
「ニセ物を売って本物のカネを得る」というのがモットーのキリンは、台湾人が持ち込む正規品の生産過剰分を販売ルートに乗せることを拒む。それはいかにもビジネスマン然とした台湾人の対する、根なし草の集団のようなキリンたちが張れる精一杯のブラフ。ヒットマンを追ったキリンが建物の屋根の上から雑然と軒を寄せるスラムを眺めるシーンがあるが、それがキリンの世界のすべてなのだ。それまでそんな地域にはだれも見向きもしなかったため、おそらくユダとキリンの商売は長年順調に進んできたのだろう、しかし突然の競争相手の出現でもろくも崩れ始める。
一応ストーリーはあるのだが、その表現方法がどこかリアリティがなく、まるで幻覚を見ているようだ。薄汚れた現実を紗のベールで覆いキリンの感情をむき出しにする一方で、高速道路の橋げたの上での大乱闘では派手に殴りあい血しぶきが飛び散るといったシュールな場面に切り替わる。さらに南米にはいないはずの白虎が孤独のシンボルのごとく登場するが、それは時に檻にとらわれ時にジャングルを彷徨する。そんな、意味不明のメタファーが続いたかと思うと「万物は塵からなり、宇宙は永遠」といったインド哲学的なものまで引用して、ことさら混乱させる始末。最後まで監督の過剰な想像力が映像の調和を乱していた。
(福本次郎)