Peace - 福本次郎

柏木の装飾されていない思いがストレートに伝わる。(点数 60点)


(C)2010 Laboratory X, Inc.

身体障害者、高齢者といった自分の足では遠くまで歩けない人々の家
を訪問し、タクシー代わりに送迎する軽ワゴン車。その運転手を務め
る男もまた定年退職した年金生活者。本来、国家がやるべき事業を予
算削減の名の下で民間に移管した結果、末端の人々の犠牲によってで
しか成り立たなくなった事実を直視する一方、それでもカネには換え
られないものがあると語る運転手の言葉が印象的だ。

荷台を改造した“有償運送車両”のハンドルを握る柏木のいちばんの
得意先は91歳になる橋本。彼は末期の肺がんを患いながらもタバコを
やめず、ダニやネズミが発生する家でひとり暮らしている。

庭に集まる猫に餌をやるのが柏木の日課。その中にいる右前脚がつぶ
れた三毛猫を柏木は動物病院に連れて行って治療してやる。さらに、
はぐれ猫にも餌をやり、他の猫に仲間だと認めさせる。人間だけでは
ない、猫にまで向けられる柏木の優しい視線は、生き物に対する慈愛
に満ちている。そこには演出も演技もなくただ彼を見つめているカメ
ラがあるのみ。柏木の装飾されていない思いがストレートに伝わる。

偶然なのか、演説中の鳩山元総理が福祉の充実を訴える演説をしてい
る横を、橋本を乗せた柏木のクルマが通る。誰もが幸福な人生を送る
権利を持つ理想を叫ぶ政治家のスピーチを尻目に、老人が老人の面倒
をみている皮肉。介護する側もされる側もあまり幸せそうに見えない
現実の前に鳩山の声は空疎に響くばかりだった。。。

福本次郎

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