わかりやすいキャラたちがわかりやすいストーリーを突っ走る大衆娯楽映画(70点)
大きなスケールと迫力のアクションで、大ヒットを記録した韓国映画。
『MUSA─武士─』は、邦画ではあまり見られない、徹頭徹尾大衆娯楽に徹した作品である。2時間13分、余計な退屈ドラマへ脱線することは一切なく、凄みのある映像と単純なストーリーで一気に見せる豪快な作品である。深みはないがインパクトは十分。日本でもこういうのを作ればいいのにとつくづく思う。
ストーリー展開は、『七人の侍』から綿々と続くコテコテのパターンで、いい奴が仲間のために一人一人倒れていくというわかりやすいもの。主役の2人には飛び切りハンサムな役者をそろえ、『ロード・オブ・ザ・リング』のレゴラスそのまんまなキャラもしっかり配置するなど、大変にわかりやすいキャラの立たせ方が微笑ましい。
戦闘シーンはタガの外れたような過激さで、首をぶっ刺すわ、手首は飛ぶわ、血しぶきは大量に噴出するわと、必要以上のリアル志向である。馬も派手にすっ転ぶので、心配するお客さんに配慮して、「この映画で、馬は一頭も怪我しておりません」と注意書きが出るほどだ。
音響も派手だ。矢はミサイルのような轟音を立てて飛んでくるし、刀は豪快な音をたてて人間をなぎ倒す。また、音楽が妙に日本のロボットアニメみたいだなあと感じていたら、担当しているのは『エヴァンゲリオン』の鷺巣詩朗だそうだ、なるほど。
人気女優のチャン・ツィ・イーはヒロインのお姫様役で、男たちは彼女を救うべくがんばるわけだが、すべての元凶がこのバカ姫にあるという事には気づいていないようだ。まあ、『HERO』同様、この手のアジア製娯楽大作というのはどれも突っ込み所満載であるが、そのいいかげんさが魅力のひとつでもあろう。
そんなわけで『MUSA』は、よそ見なしで最後まで一気に楽しませてくれる(少々バカバカしい)娯楽作品である。だから肩肘張らずに、気楽に見に行くといいだろう。その際は、なるべく音響設備のよい劇場で見ると、楽しさもアップするに違いない。
(前田有一)