◆月にたった1人、孤独の中で暴かれる衝撃的な真実（70点）
人類が月面着陸を果たしてから早約40年が経ち、人類の可能性も大きく飛躍していった。もしかしたらこれから先、月が壊れかけている地球を救う事が出来るかもしれない。そのうち月の開拓も始まるだろう。映画『MOON』では、ある1人の男が月でのある計画のため、3年間家族とも離れ、ひとりぼっちで暮らしていたのだが、任務を終えようとする時彼は自分に関するある衝撃的な秘密を暴いてしまう。
地球資源の危機に陥っているの近未来、月の自然ガス・ヘリウム3を探す会社「ルナー」に雇われ、3年契約で月面基地「サラン」で働いているサム・ベル（サム・ロックウェル）は、間もなく契約期間を終えようとしていた。サムの身の回りを世話するロボットのゲッティ（声：ケヴィン・スペイシー）との生活も2週間と迫り、離ればなれになっている妻と幼い娘に会える事に喜びを感じている時、彼は突然体調不良を訴える。そして誰もいないはずの月に何者かの存在を感じ始める…。
デヴィッド・ボウイの息子ダンカン・ジョーンズが監督を務める本作はジェームズ・キャメロンやリドリー・スコット監督作品に影響を受けているのが色濃く出ている作品で、リメイク映画ばかりが映画マーケットに並ぶ中、予算5百万ドルという小規模な作品ながらもオリジナルなアイデアが光っている。
本作が撮影されたのはイギリスにあるシェパートン・スタジオで、CGではなくモデルを使った撮影が80年代初期のエフェクトを生み出し目を引く。CGに頼ってしまう事が多い今日の映画界。それに流されない本作はモデルを作ったり動かしたり出来るその筋のエキスパート集めに苦労したそうだ。
主人公のサム・ベルは基地に1人でいるため、本作はほぼサム・ロックウェルによる1人芝居。サムは地球から送られて来る家族の映像を観ながら孤独と戦い、「家」に帰る事を心待ちにしている中、彼の健康状態は不思議と悪化してゆく。その時に彼の前に現れるのは健康でちょっと生意気な彼自身。彼は何者なのか？ そしてこの月では一体何が行われているのだろうか？
そしてサムは自分という存在にすら疑問を持ち始めてゆくが、それよりも目の前にいる自分自身が気になってしょうがない。彼は思わぬ形で閉鎖された空間で自分自身と向き合わなければならなくなってしまう。サム・ロックウェルの独特の演技のトーンがこのサムというキャラクターにマッチし、時にシリアスで、時に可笑しい奇妙な世界を作り出す。
月に自分1人のはずが、そこに得体の知れない何者かが現れるという展開も怖いが、ロボットのゲティの存在も恐怖を増幅させる。彼の無表情な話し方や一体何を考えているのか分からない不気味さは『2001 年宇宙の旅』のHAL 9000を思い出させるだろう。それでも1人になるよりはそんなロボットでさえもいてくれた方がマシなのか、サムはゲッティとうまくやっている。
本作のスケールは驚くほど小さい。それでもこれだけの新鮮なアイデアを集めた興味深い映画は近年では非常に珍しい。そして最後にはとてもエモーショナルなラストが待っている。この先、この物語の様に月の役割が増えるのかもしれない。しかし科学の進歩と伴に人類のモラルが欠如していっているのも事実。人類はやはり生き残るためならどんな事でもやってしまうのだろうか。何か恐ろしいものを観てしまった気にさせられた。
（岡本太陽）
