ジェイミー・ベルがストーカーになる!?ハラム少年の通過儀礼の物語(60点)
成長して行く過程で通過儀礼というものが訪れる場合がある。それは人それぞれだが、多くの場合快くないはずだ。避ける事の出来ない苦い経験を通して大人へと脱皮するわけだが、スコットランド映画『MISTER FOE』の主人公ハラム・フォーは18歳で、ガツンと鈍い一撃を喰らってしまう。本作はイギリス人作家ピーター・ジンクスの2001年のデビュー小説が原作で、『リトル・ダンサー』『ジャンパー』のジェイミー・ベルが主演を務める。
スコットランドに住む17歳の孤独な少年ハラム・フォーは家の近くの木の上にある隠れ家で好んで時を過ごしている。彼は2年前に溺死した母の自殺の原因は父の再婚した妻ヴェリティにあると信じて疑わない。そんな中、姉のルーシーが大学のために家を出たのをきっかけにハラムにとって更に実家が居心地悪くなってしまう。それでも彼はそこに居ようとするが、ヴェリティが彼の日記を使って半ば脅迫し家を出させようとする。ハラムは父そして義母から逃れるために1人エジンバラに向かう…。
本作の監督を務めるのは『猟人日記』『アサイラム/閉鎖病棟』のデヴィッド・マッケンジー。『猟人日記』も気味の悪い物語であったが、本作も妙なシーンがいくつかある。例えば、クレア・フォラーニ演じる義母とのハラムのセックスシーン。ハラムはヴェリティの事を憎んでいるが、妖艶な彼女を前に下の衝動は抑えられない。オープニングはアニメ調で非常に可愛らしいのだが、中身は随分とドロドロというのがこの映画の魅力の1つなのかもしれない。
またこの映画の中で特にその存在が魅力的なのはハラムに扮するジェイミー・ベル。エジンバラに1人で訪れたハラムは、そこで母にそっくりのケイトという女性に出会い、彼女に付きまとう様になる。彼女が働くホテルで仕事を見つけ、そのホテルにある時計台から望遠鏡で彼女の住まいを覗き、更に彼女のアパートの屋根を上って彼女を窓から覗いたりもする。ジェイミー・ベルはそんな母の影をケイトに見る病的で混乱した少年を爽やかに演じている。動物の皮を頭から被って、妙なメイクアップを施しても不気味というよりはかわいらしい感じだ。例えば、『パフュームある人殺しの物語』のベン・ウィショーなんかがこの役をやると、ただ気味の悪い主人公になってしまっていたはず。
ケイトを演じるのはソフィア・マイルズ。『トリスタンとイゾルデ』のイゾルデを演じた女優だ。ケイトは不倫を続けており、ハラムは彼女と接して行くうちに彼女も孤独な女性である事を悟る。彼は母に似た彼女と一緒にいたいだけだが、寂しいケイトはハラムとセックスしようとする。ここで母に容姿が瓜二つの女性と体の関係を持てるか?という疑問が浮かんでしまうが、この映画は現実の世界が舞台のファンタジー。どんな事でも出来るし、起こりうるのだ。
この物語は自殺した母に執着する1人の少年の成長の映画で、その少年ハラムが母の影を振り切るまでを描いている。その中で、気味の悪い出来事がたくさん起こるのだが、フランツ・フェルディナンド等のバンドが参加したこの映画のサウンドトラックやジェイミー・ベルがそのドロドロ劇を爽やかに盛り上げる。『MISTER FOE』はあんなに薄気味悪いストーカーのハラムなのに、どうしてもジェイミー・ベルが好印象を与えてしまう不思議な映画だ。
(岡本太陽)