マーゴット・ウェディング - 岡本太陽

『イカとクジラ』のノア・バームバック監督最新作(65点)

 ニューヨークはブルックリン出身の映画監督ノア・バームバック。彼は2005年の『イカとクジラ』で一躍有名になった。この作品はアカデミー脚本賞にノミネートされた。ウェス・アンダーソンが監督した『ライフ・アクアティック』の脚本をウェス・アンダーソンと共同執筆したことも記憶に新しい。彼の作り出すキャラクター達が織りなす会話はリアリティに溢れるが、どこかお伽話の様でもあり、現実と非現実を行ったり来たりする感覚が心地良い。そのノア・バームバックが新しい作品を監督した。彼の妻のジェニファー・ジェイソン・リーも出演している『マーゴット・ウェディング』だ。またもやジャンプカットがいくつかある作品に仕上がっている。

 主人公マーゴをニコール・キッドマンが演じる。彼女は今年は大活躍の年で、多くの主演作が公開された。来月には世界が待望しているトリロジーの第1作目『ライラの冒険 黄金の羅針盤(原題:THE GOLDEN COMPASS)』が公開になる。今回の『マーゴット・ウェディング』での役は今までのニコール・キッドマンのキャリアの中ではなかった様なキャラクターだ。それ故に彼女の演技は注目である。

 またニコール・キッドマンと姉妹役でジェニファー・ジェイソン・リーがポーリーンに扮する。彼女はわたしにとっては80年代という印象の強い女優だが、94 年の『ミセス・パーカー/ジャズエイジの華』、95年の『黙秘』や『ジョージア』では演技派としても注目を集めた。現在45歳の彼女だが、『マーゴット・ウェディング』のポーリーンは奔放で自由気侭な性格のせいかずいぶん若く見える。ニコール・キッドマンとジェニファー・ジェイソン・リーはこの映画の中で好演している。

 それからポーリーンの婚約者マルコム役にジャック・ブラックが扮する。『スクール・オブ・ロック』以降、日本でもコメディ俳優としての認知度が高くなった彼の今後の出演作はミシェル・ゴンドリー監督の最新作『BE KIND REWIND』、ベン・スティラーが監督する『TROPIC THUNDER』等多数あり、まさに売れっ子俳優だ。

 物語はマーゴと息子のクロードが電車で、マーゴの妹ポーリーンの結婚式が行われる実家に行くところから始まる。妹に会う事は姉にとって普通のことである。しかし、マーゴとポーリーンは1年間ろくに会話をしていなかった。窓から見える変わりゆく景色。息子との友達の様な会話。それらがマーゴの不安を映し出す。実家に着いたマーゴ達はポーリーンに温かく迎えられる。1年会話をしていなかったので、なんとなくぎこちないがまた再会した姉妹。しかしながらポーリーンの婚約者のマルコムは職無しの絵描きだった。マーゴはまたポーリーンに不安を抱き始める。1度はバラバラになった姉妹。マーゴとポーリーンは家族として、姉妹として、親友として再び絆を取り戻す事ができるのだろうか…。

 『イカとクジラ』の時もそうだったが、今回の『マーゴット・ウェディング』でも家族について描いている。『マーゴット・ウェディング』では特に、家族という集合体から離れた家族を描く。夫を置いて妹の結婚式に出かけるマーゴとクロード。もう一緒には住んでおらず、1年間口をきいていないマーゴとポーリーン。マーゴと息子のクロードで例えるならば、そこで気になってくるのが、母と息子の境界線が時々曖昧になる所だ。同じ空間を共有する彼らは時に、友人同士にも見えるし、年の離れた恋人同士に見えなくもない。マーゴとポーリーンについても同じ様な事が言える。理解し合っている姉妹同士に見えるし、全くお互い何も知らない他人同士にも見える。

 このような事はわたしたちが所属する家族という集合体の中でも同じだ。家族と他人はどう違うか。どう違うべきなのか。豊田利晃監督の映画に『空中庭園』という家族を描いた作品があるが、この映画の中では家族というものは皆、互いに互いの役柄を演じていると言っていた。父は父親の役、娘は娘の役という様に。もしかしたら、わたしたちが家族と会う時は、無意識のうちに父、母、息子、娘、兄、姉、弟、妹を演じているのかもしれない。故にわたしたちの間にある境界線は不安定なのだ。だからこそ他人から見ると、その境界線が朧げに見えるのだろう。

 ノア・バームバック監督は前作の『イカとクジラ』では自らの実体験が主になっていたが、今回は主人公が女性。マーゴに対しては、もちろノア・バームバック自身の実体験も含め人物像を作っていっただろうが、おそらくこの『マーゴット・ウェディング』の主人公は監督の実
験的産物だろう。監督は自らが疑問に思っている事を映画の中で描いている。不協和音を奏でるマーゴの家族はどうなってしまうのか。ノア・バームバックは明らかな答えを映画の中で、提示しない。彼はストーリーの中でわたしたちに疑問をまき散らす。そしてその疑問をまき散らしたまま映画は終わる。わたしたちは必然的に映画が終わった後にもそれについて考える。ノア・バームバックは紛れもなく現代のヌーベルバーグ映画監督である。

岡本太陽

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