マイク・ニューウェル監督最新作(20点)
ハビエル・バルデムという俳優はスペイン人俳優の中でも最も成功した俳優の中の1人に挙げられるだろう。『夜になるまえに』『海を飛ぶ夢』『ノーカントリー』等、出演する作品のクオリティーも高い。彼が出演する事により、作品に安心感さえ与える。先日彼の新しい主演作『コレラの時代の愛』が公開になった。『LOVE IN THE TIME OF CHOLERA』というG・ガルシア・マルケスの小説が基になっており、わたしは原作本を読んでないが、友人が本は良かったと言っていたので観たが、この映画は非常にひどい出来だったのである。
監督はマイク・ニューウェル。監督として『フォー・ウェディング』『フェイク』『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』、プロデューサーとして『トラフィック』『ナイロビの蜂』等を手掛けているだけに、今回の作品は期待も大きかったが、多くの映画の脚本のを手掛けている脚本家のロナルド・ハーウッドと共に原作の持つ良さを生かしきることができなかった。
夫を亡くしたばかりのフェルミーナ72歳。彼女の夫の葬式の日に彼女の前に現れたのは76歳のフロレンティーノ。彼はフェルミーナが未亡人になるのを51年 9ヶ月と4日待っていたのだ。彼女に愛を告白するフロレンティーノだが、フェルミーナはそれをすぐに受け入れられるはずもなかった。そして時はさかのぼり、19世紀末コロンビア、17歳のフロレンティーノは13歳のフェルミーナにひと目で恋をした。フロレンティーノはフェルミーナに愛を告白するものの、フロレンティーノは彼女の父に毛嫌いされてしまう。そして内戦の激化とともにフェルミーナは父親と共に疎開する。再びフェルミーナは町に戻るが、ある医師と結婚してしまう。しかしフロレンティーノの彼女への愛は消えることはなかった…。
主演は先程紹介したハビエル・バルデムと日本ではほとんど知られていないイタリア出身のジョバンナ・メッツォジョルノ。しかし彼女は『ブロークバック・マウンテン』が金獅子賞を獲得した第62回ヴェネチア国際映画祭で女優賞を受賞している。非常に美しい女優だ。彼女はフェルミーナを演じるのだが、13歳から72歳までのフェルミーナを1人で演じるのはちょっと無理があったのではと思わされた。特に72歳のフェルミーナは、うまく演技はしているものの、外見にかなりの違和感があった。その他の役には、フェルミーナが結婚する医師にベンジャミン・ブラット、フェルミーナの父にジョン・レグイザモ、フロレンティーノの母にフェルナンダ・モンテネグロが扮する。
この映画の見どころはやはり51年9ヶ月と4日の間1つを愛を貫いたところ、そしてそれに美しさを感じることにあると思うのだが、その描き方が最悪だ。フロレンティーノがただのストーカーにしか見えないのだ。10代のフロレンティーノならまだ許容範囲内だが、成長してハビエル・バルデムになると、フェルミーナを思いながらもマザコンでセックス中毒の気持ち悪いおっさんになってしまう。600人以上と経験があると言っていた。それはそれでハビエル・バルデムが演じるとハマるが。
また性描写も好ましくなかった。官能さ全くなく、ただただ滑稽なだけだ。おそらく少々コメディタッチを狙っているところもあるのだろうが、笑うどころか失笑してしまう性描写になっている。現にわたしが観ていた時には、観客が席を立ち「これは見れない」と言いながら去っていった。
原作本があるものを映画化するとだいたいにおいて失敗してしまうのが世の常。その中でもこの『コレラの時代の愛』は相当酷い部類に入るかもしれない。ラテンアメリカが舞台なので、色彩豊かなことと、豊富な自然が唯一目の保養になる映画である。監督と俳優そして原作本に釣られて観ると、映画が終わって早々と映画館を立ち去りたくなる作品である事は必至だ。
(岡本太陽)