日本最強子役が挑む難病もの(65点)
神木隆之介といえば天才子役。デビュー当初よりその演技力は高く評価されている。個人的には演技うんぬんより、性別を超えた透明感溢れるルックスとムードこそが持ち味と思っている。誰もが一目で好感を抱いてしまう、このオーラこそ神木隆之介最大の武器であり、それは14歳になった本作でも衰える気配がない。
1977年の函館。野球とラジオが大好きな少年、太郎(神木隆之介)は、試合中に倒れ、そのまま入院することに。そこで"大先生"(原田芳雄)と知り合った彼は、そのはからいで翌日から院内放送のDJを任される。番組は好評で、すっかり院内で有名人となった太郎は、一人の少女(福田麻由子)と出会い、急速に惹かれていく。
小さな恋と不条理な運命、懸命に生きる少年の生きがいとなるDJ……。すべて予想の範囲内の物語ながら、どこか心ひかれる作品だ。これは本作が、脚本でなく画面と役者で魅せる映画だから。
斜めに病室に差し込む光はやわらかく、淡いセピア色は郷愁を誘う。意識の水面下で70年代を感じさせるような、わざとらしさのない美術。そして現在最高といわれる子役二人。じつに調和が取れている。
神木隆之介のDJは、彼があこがれるパーソナリティー(小林克也)のように、決して上手というわけではない。だが、すれていない、こじゃれたところのないそのピュアな語り口が、なんともいい味わいなのである。これなら闘病中の患者たちが喜ぶのも当然。病院でDJなどと、一歩間違えば大迷惑な行動にこれほど説得力を持たせてしまうとは、この役者はただものではない。
当時を思い出させる歌謡曲など、選曲もいい。初めてのデートや、その後の贈り物も含め、とにかく映画全体が素朴で心地よい。同じ難病ものでも、どこかの国が作るとギャグになるが、これはそうなっていない。
エンドロールの最後まで見ると、ちょっといいことがあるかもしれない。無難で堅実な感動ものを探している方にどうぞ。
(前田有一)