Little DJ 小さな恋の物語 - 福本次郎

◆思い出のかなたの恋、白血病、なつかしの歌謡曲・・・。男女の設定を逆にし低年齢化した「セカチュー」の亜流でしかない。限られた命を生きる主人公はあくまで前向きで、中学生ならではの複雑で屈折した心境を描くべきだった。(30点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 思い出のかなたの恋、白血病、なつかしの歌謡曲・・・。中学生を主人公に、男女の設定を逆にしただけというまったくの「セカチュー」の亜流でしかない。ここまで臆面もなく剽窃する開き直りはある意味立派だ。限られた命を生きる主人公はあくまで前向きで、いかにも大人が考える理想的な子供という趣、もっと中学生ならではの複雑で屈折した心境を描くべき。また、キーワードになる「年下の男の子」が余り効果的に使われておらず、曲選びも厳選すべきだった。

 野球と実況中継のモノマネが得意な中学生・太郎は突然の鼻血で入院する。ある日、病院長が趣味でやっている院内放送の放送局に入り込み、DJを始めると大評判になる。そんな時、隣のベッドにたまきという少女が移されてくる。

 そもそも、安静が必要なはずの病院内でポップス専門局のような放送を流すのはいかがなものか。確かに入院患者を元気づけることもあるだろうが、音量が調節できない館内スピーカーで、患者や病院関係者は強制的に太郎のしゃべりと彼が選んだ音楽を聴かされるのだ。これを不快に思う人間がいることを院長は気付かないのだろうか。また、大部屋で男女同室というのも首をかしげる。70年代の函館では当たり前だったのかもしれないが、たまきのように太郎のベッドに潜り込む患者も出てくるだろう。これでは病室で性行為に励む患者が必ず出る。非常に風紀の乱れた病院だ。

 太郎とたまきはお互い惹かれあい、先に退院したたまきが太郎をデートに誘って病院を抜け出すと、太郎の病状が悪化するなどというエピソードも「セカチュー」のパクリ。他の入院患者との交流や親子の愛などでお茶を濁しているが、掘り下げ方が甘く何も訴えてくるものがない。入院費を払えず病院を転々とする男の話など、現在にも通じるテーマがあったのに通り一遍で終わっているところが残念だ。この映画が持つ、いかにも「泣かせます」という安っぽさが、反対に観客をしらけさせることを作り手は早く気付くべきだった。劇中、ふたりが見に行く「ラストコンサート」も、あまりにも通俗的で泣けなかった。。。

福本次郎

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